1949年,赤﨑先生が京都大学に在学中,湯川秀樹先生がノーベル物理学賞を受賞されました.若き赤﨑先生は「湯川先生のお仕事というのは雲の上のことだけれど,自分も何か小さいことでもいいから,今までにない何かをやりたい」と強く思ったそうです.そして,17年後の1966年,松下電器東京研究所の室長としてGaAsP系赤色LEDの開発を進めていた赤﨑先生は,「青がない」ことに気が付きます.それを実現することこそが「何か」だと確信し,窒化物の研究を始められました.その後,20年間におよぶ地道な研究を経て,1986年,ついに低温バッファ層を用いて高品質GaNの結晶成長に成功し,次いで1989年,GaN pn接合型青色/紫外LEDの作製を実現.今日のGaN光・電子デバイスの基盤が確立されることとなりました.赤﨑先生にノーベル賞受賞発表後の様子から,若い頃の思い出,研究の苦労と喜び,応用物理学会や若手会員へのメッセージを伺いました.
半導体超格子中に発生する電界ドメインは,超格子中を走行するキャリヤの輸送速度が電界に対して非線形に変化することに起因して生成される.古くは,静的に位置が固定化された電界ドメインが注目されてきたが,近年,ドメイン位置の不安定性より生ずる電流発振現象が注目されている.そのような半導体超格子より発生する電流の継続的な自励発振に関する非線形ダイナミクスに対して,その原因や振る舞いについて理論と実験結果の両面から解説する.
ニオブ酸リチウム(LN)を用いた電気光学変調器は,高速性,広帯域性,安定性,信頼性などの優れた特長をもっており,長距離光ファイバ通信やマイクロ波フォトニクスなどの分野で広く用いられている.特に,電場印加による不要な光瞬時周波数シフト(周波数チャーピング)が極めて小さいために,光の振幅・位相を高速かつ精密に制御することができる.これらの特長を巧みに生かしたLNベクトル光変調器は,最新の高密度大容量情報伝送に不可欠となっている.一方,LNは,比較的大きな自発分極をもつ強誘電性光学結晶でもある.近年,強誘電性光学結晶の自発分極を微細に選択的に反転させる技術が開発されて,高効率な非線形光波長変換デバイスが実用化されている.この分極反転技術を電気光学変調器に適用すると,これまでにない新しいタイプの電気光学デバイスを実現することができる.本稿では,筆者らのグループが研究を進めているデバイスを中心に,新しい光制御デバイスの可能性について述べる.
PETや粒子線治療など,より優れたがん診断・治療に向けた技術革新が行われてきたが,それらの組み合わせは未踏の領域である.これに対して,治療中でも画像化できる世界初の開放型PET装置「OpenPET」の開発が進んでいる.具体的には,放射線センサ内部の放射線検出位置を3次元的に特定できる次世代検出器によって,2つの検出器リング間の開放空間の断層イメージングを可能にした.OpenPETによって,がんを直接イメージングしながら,かつ治療ビームが正しく当たっているかどうかも確認して照射する,安全・安心・確実な未来のがん治療の実現が期待される.
本稿ではポリマーやゲルなど,ソフトマテリアルの構造を研究する新たな手法として,テラヘルツ(THz)分光の可能性について述べる.ポリヒドロキシ酪酸やナイロンなどのポリマーのTHz吸収スペクトルから,高次構造の情報を抽出するためのスペクトル解析法を確立したこと,ならびに,特定の高次構造や水素結合に特徴的なTHz吸収ピークの観測から,ポリマーやゲルの相転移に伴う構造変化を解明したことについて解説する.
固体における相転移現象は,磁気物性や電気物性,光学物性などを,光や圧力,電場などの外部刺激により自在に操ることができる可能性があり,基礎および応用の両面から広く注目を浴びている.筆者らはこれまでに,相転移理論を基に双安定性を示す金属錯体などの相転移物質を化学的に合成し,さまざまなユニークな相転移現象や光誘起相転移現象を報告してきた.その中でも,本稿では光磁性現象に焦点を当て,RbMnFeヘキサシアノ金属錯体とFeNbオクタシアノ錯体で観測された機能性光磁性現象を紹介し,そのメカニズムについて述べる.
セルロースナノファイバとは,幅4〜15nmの微細な繊維状物質であり,地球上全ての植物に含まれる無尽蔵な天然資源である.私たちはこのナノファイバを使って,世界で初めて「透明な紙」を作ることに成功した.この材料は,ガラスのように透明,プラスチックよりも高い耐熱性,そして紙本来の軽量・折り畳み可能といった特徴を有する.そこで私たちは,透明な紙・セルロースナノファイバの電子デバイス用途への開発を行っている.本稿では,透明な紙の透明性や機械的特性を紹介し,さらには透明導電膜・トランジスタ・アンテナ・メモリ・高誘電率材料などペーパーエレクトロニクスに関する研究成果を紹介する.
多結晶セラミックスはレーザー性能において効率,出力さらには機能面においても従来の単結晶技術を凌駕(りようが)することが証明されてきた.本稿では,多結晶媒質からコヒーレンス光の増幅原理,新材料開発,新しい機能創生,そして最近の大出力レーザー発生で得られた成果などについて紹介する.
顕微鏡は使う人の知識や技量がそのまま結果に反映される装置です.顕微鏡の原理を理解したうえで使うのが理想ですが,なかなか勉強のための時間や機会がないというのが実情と思います.本稿ではまず顕微鏡を使えるようになることに主眼をおき,そのために必要な調整方法を前半で述べます.後半では知っておくと便利なコツをいくつか紹介します.興味のある方は文末に紹介した文献で基本原理を習得していただければ幸いです.