従来のエレクトロニクスデバイスでは,室温(環境熱雑音)に対して十分に高いエネルギーを投入することで,高速かつ正確な演算を実現している.これに対して生体系の行う情報処理は,熱雑音(揺らぎ)を巧妙に活用することによって,処理速度は低速であるが,熱雑音と同レベルの超低消費エネルギーで確率的に動作している.この“揺らぎ”情報処理の鍵は,環境からの“熱”エネルギーを活用する点にある.これまで“厄介者”であった“環境中の雑音(揺らぎ)エネルギー”を生かす逆転の発想による生体に学んだ超低消費電力デバイスの実現が期待される.
2010年に名古屋大学に設置された1000kV反応科学超高圧走査透過電子顕微鏡(JEM-1000K RS)は,触媒反応や金属の酸化・還元反応などを直視するために,試料近傍に差動排気方式の最大0.1気圧までの各種ガスを導入可能なガス導入機構をもち,化学反応の動的その場観察を主な使用目的として設計・製作された.本稿では,その場観察の例を紹介する.
スピントロニクスにおける最重要課題の1つが,スピンの流れ「スピン流」の生成制御である.近年の微細加工技術の進展によって,スピン流を媒介とする多様な物性現象が探索されている.本稿では,スピン流を媒介して液体金属流体運動から電圧を発生する「スピン流体発電」を紹介する.回転体中に普遍的に現れる相互作用,スピン回転結合により,物体の力学的角運動量とスピンとが相互変換される.その結果,細管に流した液体金属中の渦度分布からスピン流が生成され,管に沿った方向に電圧が生じる.これはスピントロニクスに動力を組み込む試みであり,MEMSとスピン流の融合したデバイス開発が期待される.
電子スピン共鳴(ESR)分光は材料の磁気モーメント(スピン)を選択的に検出でき,材料における局所的な情報を微視的な観点から研究するために有効である.ESR分光を用いることで,有機デバイスの微視的な性質,例えば,電荷キャリヤ状態や分子配向などを多角的に評価できる.本稿では,ESR分光を用いた有機トランジスタ,有機太陽電池,有機発光ダイオードおよびその構成材料のミクロ特性解析について,最新の研究成果もあわせて紹介する.
水素を封入した共振器に連続発振レーザーを集光すると,4波ラマン混合により水素の回転および振動ラマン光が多数発生する.これらの発振線の位相同期により安定な光パルス列が生じる.その繰り返し周波数はラマンシフト周波数に比例し,水素の分子振動を利用すれば極限の高速繰り返しモード同期レーザーが実現できる.
局在表面プラズモンによる増強電磁場に置かれたナノ粒子には強い光圧が作用する.その結果,ナノ粒子を貴金属ナノギャップ近傍に光捕捉できる.我々はこのプラズモン光捕捉を用いて,DNAや合成高分子などのソフトマターが特徴的なモルフォロジーを形成することを見いだした.この現象には,増強した光圧だけでなくプラズモン励起に伴う光熱効果の影響(巨大温度勾配)が働いていると考えられる.このような光と熱の協同作用を巧みに利用することで,ソフトマターの新たなマイクロパターニングが可能になると期待できる.本稿では,特にソフトマターのプラズモン光捕捉の特徴を紹介し,DNAおよび合成高分子の分子集合体形成のメカニズムについて述べる.
有機トランジスタはフレキシブル・プリンテッドエレクトロニクスへの応用だけでなく,有機半導体材料のキャリヤ輸送特性評価法としても多用されています.現在,新しい材料開発が急速に進む中で,信頼性のあるデータ取得を目的とした標準的な評価法の確立が必要とされています.本稿では,有機トランジスタの最も基本的な特性である静的な電流-電圧特性の評価を対象に,測定・解析方法やそれらを実施する際の注意点について説明します.