半導体超薄膜を用い超格子中の膜に垂直な方向の伝導とサブバンド間遷移を利用した量子カスケードレーザーと呼ばれる新しい型の半導体レーザーの動作原理,活性層デザインの考え方,中赤外帯やテラヘルツ帯における開発現状,計測応用などについて述べる.
半導体超格子では,ナノメートルオーダーの長周期性を有するポテンシャル構造によってミニブリルアンゾーンが生じ,電子・正孔ミニバンド構造が形成される.超格子の積層方向に電場(F)が印加されると,ミニバンドを形成するための量子井戸間の共鳴トンネル現象が静電ポテンシャルによって破〔は〕綻〔たん〕し,波動関数は局在化する.また,ミニバンドは,eFD(D : 周期)のエネルギー間隔で量子化されたシュタルク階段状態に分裂する.この現象をワニエ・シュタルク(Wannier-Stark : WS)局在と呼び,超格子の波動関数と固有エネルギーを制御する自由度をわれわれにもたらす.本稿では,光物性の観点から,ミニバンド構造とWS局在について解説する.
近年,従来の延長線上にない新しいアプローチにより,単接合太陽電池のエネルギー変換効率を上回り,かつ低コスト化が展望できる次世代型高効率太陽電池の研究開発が活発になっている.本稿では,理論変換効率60% 以上の超高効率化が可能な量子ドット超格子を利用した中間バンド型太陽電池について,その動作原理と開発動向について述べる.
高エネルギーイオンビームの「ものづくり」への利用を考える.高エネルギーイオンは,物質との相互作用で直線的な飛跡に沿い,高い線エネルギー付与(Linear Energy Transfer : LET)と,飛跡終端付近でブラッグピークをもつという大きな特徴を有し,照射条件にも,ほかの放射線にはない際立った多様性をもつ.高エネルギーイオンビームをナノメートルレベルで制御するマイクロビーム技術は多様で新奇な微細構造を創出でき,情報通信や医療分野などで役立つ「ものづくり」技術となりうる.ただこの実現には,イオンビームと物質との相互作用の基礎的・系統的知見の蓄積,それを基礎とした材料,ビーム技術,および加工技術など,多分野の研究者による有機的な取り組みが必要である.
筆者らは最近,たんぱく質・核酸・多糖類などの生体高分子やコロイドなどが形成するいわゆるソフトマターの界面(ソフトインターフェース)における諸現象に注目し,標記題目を研究課題とした新学術領域研究(文部科学省科学研究費補助金)を展開している.本稿では,先進医療を支えるバイオマテリアルやバイオデバイスに関連して,その性能を支配する重要な因子と考えられているソフトインターフェースについて,分子科学の視点から解説する.
半導体量子井戸のサブバンド間遷移を利用した,超高速光ゲートスイッチの最近の進展について紹介する.InGaAs/AlAsSb 量子井戸において,TM 偏波でサブバンド間遷移を光励起すると,吸収損失のないTE 偏波に対してピコ秒の応答速度をもつ位相変調効果が発生することが発見された.この位相変調効果を利用したマッハツェンダー干渉計型の光ゲートスイッチを用いて,160Gbit/s 時間多重信号の多重分離や波長変換など,超高速伝送システムで必要とされる光信号処理機能が実現されている.位相変調の物理,その高効率化のための量子井戸構造,光ゲートスイッチを用いた高速光信号処理について紹介する.
中性子国家標準は,中性子測定器の応答や中性子線源の強度を知るうえで,その拠〔より〕所〔どころ〕となるものである.中性子が最先端の研究開発の場にとどまらず,原子力分野をはじめ,航空宇宙,医療などの産業活動において広く登場するようになった現在,中性子標準の重要性はますます増大している.本稿では,中性子国家標準の現状と最近のトピックス,今後の取り組みについて紹介する.
固体のバンド中における電子のブロッホ振動は,固体物理学の基本概念として,その黎〔れい〕明〔めい〕期〔き〕から今日に至るまで,多くの研究者の興味をかきたててきた.さらに,近年のテラヘルツ電磁波技術への応用にも関係して,最近,注目を集めるようになってきている.本稿では,提案から40年を経た半導体超格子を用いたブロッホ発振器に焦点を当て,その実現に向けて,ブロッホ振動電子がもつ物性に関する現在までの理解と今後のデバイス応用に向けた課題を概説する.
共鳴トンネルダイオードは,その高速性からテラヘルツ信号源などの超高周波応用が期待されている.しかし,安定性や,プロセス,コストなどに問題があり,その実用化は進んでいない.ここでは,それらの問題をクリアするための新しい集積化技術,回路技術とその応用例について述べる.
ホットウォールエピタキシー(HWE)法による半導体薄膜・超格子成長とデバイス応用に関する研究は30年以上前から続けられている.ここでは,HWE法によるIV-VI族半導体超格子の成長と赤外線レーザーなどへのデバイス応用を振り返り,最近の熱電応用に関する研究と量子カスケードレーザーに向けた研究の現状について述べる.
蓮〔はす〕や里芋の葉が,水滴をコロコロはじいているのを見たことがあるでしょう.水をはじく表面の性質を『はっ水性』と呼んでいます.逆に,水がベタッと濡れる表面の性質を『親水性』といいます.はっ水性の中で,特に蓮の葉の上の水滴のように,水滴がコロコロした状態を『超はっ水性』と名づけています.蓮の葉の表面に似た表面を人工的に作製すれば,超はっ水表面が得られるわけです.このような表面の応用は広く,いろいろな分野で期待されています.ここでは,透明な超はっ水膜の作製と応用,また超はっ水/超親水パターン化構造と応用について述べます.
デジタルオシロスコープとアナログオシロスコープの違いについて,実際に光パルス波形の測定を例にとりながら説明する.特に,デジタルオシロスコープでは,測定信号をほぼリアルタイムにA/D変換して,いったん離散的なデジタルデータとしてメモリーに格納する,という原理を理解することが重要である.この原理に基づき,デジタルオシロスコープを正しく使うために注意する点は,「サンプリングレート」と「データ長」である.また,デジタルオシロスコープならではの有効な使い方として,リアルタイム演算と単発現象の捕捉についても,解説する.