光メモリーはコンパクトディスク以来順調に発展を遂げ,音楽,映像の配布・販売媒体,あるいはパーソナル・コンピューターの外部記録媒体として確固たる地位を築いてきた.しかし昨今は徐々にほかの方式のメモリーに押されつつあり,その将来展望は必ずしも明るくない.本稿では,光ディスクの原理とその限界について解説し,その限界を打破する,ブルーレイ・ディスク以降の新しい原理に基づく光メモリーの展望に関して述べる.
NANDフラッシュメモリーはデジタルカメラ・携帯電話・音楽プレーヤーなどの携帯デバイスの記憶媒体として使用されている.さらに,フラッシュメモリー・NANDコントローラー・DRAMで構成されるソリッド・ステート・ドライブ(SSD)として,パソコンやデータセンターのサーバーなどのHDDを置き換え,消費電力が少なく地球環境に優しいITシステムを実現することが期待されている.フラッシュメモリーは現在25nm技術により64Gbitまで大容量化されているが,データセンターではテラビット以上の大容量が必要とされ,フラッシュメモリーのよりいっそうの低消費電力化・高信頼性化・大容量化が求められている.本論文では,フラッシュメモリーおよびSSDの現状と将来動向を紹介する.
垂直磁化を用いた磁気ランダムアクセスメモリー(MRAM)として,スピントランスファートルクによる書き込み方式である,スピン注入方式と電流誘起磁壁移動方式を紹介した.いずれも,垂直磁化を用いることで,スピントルクが磁化反転を誘起する効率が改善され,書き込み電流を低減することができる.さらに,スピン注入方式では垂直磁化のもつ大きな磁気異方性により,磁壁移動方式では磁壁の熱安定性と書き込み電流とを独立に制御できるという性質により,データの熱安定性の向上が実現され,電流磁場方式では実現できなかったセルのスケーラビリティが実現している.スピン注入方式は,2端子セルの特徴であるセル面積を小さくすることの優位性から,大容量な単体汎用メモリーへの応用が期待され,垂直磁化の採用によりギガビットを超える高集積化が現実的なものとなりつつある.一方で,磁壁移動方式は,3端子セルの特徴である高速性と,システムオンチップにロジック回路と共に集積することが容易となる特徴から,待機時電力ゼロのシステムオンチップを実現する技術として期待される.
ブレークスルーの源泉を理解するために,「知の具現化」と「知の創造」の二次元空間でイノベーション・プロセスを表現するイノベーション・ダイヤグラムの方法を提示する.すべてのイノベーションは,「知の創造」と「知の具現化」の連鎖として表現できること,そしてその交差点としての「共鳴場」が成就に重要な役割を演ずることを見いだす.この方法により,ブレークスルーの第一のタイプにほかならない「パラダイム破壊型イノベーション」を導くとともに,ブレークスルーにはさらに二つのタイプがあることを発見する.この議論を通じて,未来を見抜くには科学パラダイムの地平に下りる能力とともに,さまざまな評価次元や学問分野に飛び移ることのできる「回遊」的思考が重要であることを論ずる.
大容量積層メモリーとロジックの三次元集積技術は,飛躍的な性能向上と消費電力削減が同時に実現できることから,大きな注目を集めている.ここではTSV(Through-Silicon Via)を用いたDRAM(Dynamic Random Access Memory)とロジックIC(Integrated Circuit)の三次元実装技術として,SMAFTI(SMArt-chip connection with FeedThrough Interposer)を紹介する.
次世代高密度光メモリーとして,多層化による高密度化手法を紹介する.多層化による高密度化技術は,従来の光メモリーシステムを光軸方向に拡張したものであり,これまでの技術資産を有効に利用することができるため,最も有望な高密度化手法の一つである.ブルーレイディスクを多層化して高密度化を目指したもの,2光子励起過程を利用してさらなる高密度化を目指したものについて紹介する.
将来の半導体メモリーは,これまでのスケーリングに基づく技術開発だけでは,目標性能の達成が困難になりつつある.第一に,ロジックが要求するメモリーバンド幅と,メモリーの動作速度の間のスピードギャップによる各メモリー階層間のスピードギャップも年々拡大してきている.これに加えて,半導体メモリーの大容量化と高速動作化によって消費電力も急速に増大してきている.さらに,NANDメモリーなどのストレージメモリーでは,リソグラフィ技術の進展よりも速い大容量化が市場から求められている.
この背景にかんがみ,将来の半導体メモリー階層構造の変革の方向性を論じる.そして,メモリー動作速度のスピードギャップと消費電力の課題を同時に解決することで,この階層構造変革を実現するスピンRAMなどの新しい動作原理に基づく不揮発性RAMの動向を紹介する.さらに,メモリーセルを三次元的に積層する積層型縦型構造メモリー技術に基づく大容量NANDメモリーの動向を論じる.最後に,次世代不揮発性メモリーとして注目されているスピン素子を半導体CMOSロジックと高次に融合させる不揮発性ロジックを紹介し,将来の超低消費電力システムの観点から不揮発性RAMのロジック技術への波及効果を論じる.
Metal-Oxide-Nitride-Oxide-Semiconductor(MONOS)型メモリーの電荷トラップ層であるSiN層中での書き込み/消去動作時の電子・原子構造変化を第一原理量子論に基づいて理論的に検討した.その結果,SiN層中の過剰O原子が不可逆的な構造変化によってメモリー劣化を引き起こす欠陥の生成に寄与することを明らかにした.この結果は,SiN電荷トラップ層中の過剰O原子の生成を抑えることがMONOS型メモリーの性能の向上に対して極めて有効であることを意味する.また,SiN層中のN原子空孔の振る舞いを原子レベルで明らかにすることにより,書き込み/消去に対して原理的に可逆的な性質をもつJahn-Teller型の欠陥は理想的な電荷トラップとして働くことを提案した.
これまで従来型平面構造MOSFETの微細化によってLSIの高性能化は実現されてきた.しかし微細化に伴って顕著になってきた「特性ばらつき」によって,LSIの中核部品であるSRAMの微細化が困難になってきている.15nm世代以降も,高速動作・低消費電力といった特徴をもつSRAMを引き続き利用するために,完全空乏型MOSFET,特にダブルゲート構造をもつFinFETの導入による特性ばらつきの低減が期待されている.しかし,立体型構造をもつFinFETの高集積インテグレーションにはまだまだ課題が多い.本稿では,FinFETを用いた微細SRAMのインテグレーションについて特性ばらつきの観点から述べる.
低エネルギー電子顕微鏡ならびに光電子顕微鏡は,動的観察が可能な新しい多機能表面電子顕微鏡として広く使われ出している.従来の表面電子顕微鏡で得ることが難しかった情報が得られるのが魅力である.収差補正による分解能の向上,ピコ秒オーダーの超高速観察,レーザー光を用いた磁区観察,高偏極・高輝度スピン偏極電子銃の開発による磁区の動的観察など,現在も新しい開発が続き顕微鏡の機能が大きく発展している.ここではその一端について現状を述べる.