モノのインターネットの進展に伴い,膨大なセンサ群の駆動電力をいかに確保するかが課題となっている.“電力の地産地消”としての環境発電,中でも身の回りのあらゆる場面で発生する熱エネルギーを電気に変換する熱電発電を利用すれば,センサへの配線や電池交換などのメンテナンス作業を減らせると考え,有機熱電材料・素子に関する研究開発を進めている.本稿では,カーボンナノチューブ熱電材料のドーピングやモジュール応用について,筆者らの成果を中心に概説する.
酸化物ナノシートは究極の2次元性とともに,グラフェンにはない組成,構造,機能の多様性を具備しており,グラフェンで実現できない機能発現を目指す「ポストグラフェン材料」の新しい舞台として注目されている.特に,超伝導性,強誘電性,強磁性など,酸化物の示す多彩な物性は,新しい電子材料,環境・エネルギー材料として興味深いものであり,ナノシート単体,複合体として多岐にわたる応用が検討されている.本稿では,筆者らのグループの研究を中心に,酸化物ナノシートの合成・集積技術とともに,電子材料応用について紹介したい.
機械振動子は現代の科学技術で重要な役割を果たしているが,その量子技術への拡張は依然として困難な課題である.共振器オプトメカニクスはその汎用(はんよう)性のために画期的な進展をもたらし,特に極低温下で動作する超伝導回路オプトメカニクスは,機械振動子の量子制御・測定のための先駆的実験系である.私たちは,新たなデバイス作製技術を導入することで,この分野における長年の課題を克服し,量子極限で動作する長寿命かつ拡張可能な超伝導回路オプトメカニクスを実現した.我々のオプトメカニクス系は,多体物理研究の新たな実験系を提供するのみならず,量子計算・通信のための量子メモリへの応用や,巨視的量子効果や暗黒物質探索などの基礎物理研究にも貢献が期待される.
2020年,小惑星からのサンプルリターンに成功した小惑星探査機はやぶさ2は,小惑星を離脱する直前に,ローバーと着陸用マーカーを小惑星周回させる工学実験を実施し,世界初の複数・最小の小惑星人工衛星の生成に成功した.本稿では,この小惑星周回における軌道設計の戦略と実験の結果や,今後のJAXAの深宇宙探査ミッションを踏まえた天体周回軌道の将来展望について述べる.
近年,IoT機器の普及に伴い環境発電技術を利用した自立型IoT機器が注目されている.環境発電技術には熱電発電,振動発電などさまざまな種類があるが,ここでは焦電発電に注目する.焦電発電は温度変化のみで発電できるため,さまざまな排熱源を利用して発電できる技術である.本稿では,この焦電発電を用いた自立型IoT機器の性能をシミュレーションおよび実験を通して評価した研究について紹介する.
マテリアルズインフォマティクスの発展に伴い,新規物質を予測する技術が大幅に進歩した.しかし予測された全ての物質が実際に合成できるわけではない.我々はより多くの新物質を実現するため,準安定状態を扱う合成技術の開発を進めてきた.本稿では,特定の構成元素のみを拡散制御することで,結晶構造を大きく変えずに化学組成の変調を促す合成手法を紹介する.
革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)は,スーパーコンピュータ「富岳」をはじめとする国内の大学や研究機関の最先端のスパコンを学術界や産業界の方が利用できるようにしたものです.ニーズに合わせたさまざまな利用形態があり,付加サービスが受けられる有償利用を除き無償で利用可能です.また,利用中に加えて利用前から無償で利用支援を受けることができます.ここではHPCIの概要,利用制度や利用支援などについて紹介します.