超ワイドバンドギャップ物質であるダイヤモンドは,パワー半導体ならびに欠陥中心を利用する量子センサや量子光源の材料として精力的な応用研究がなされている一方,電荷キャリヤや励起子,それらの複合体が共存する量子多体系の舞台として多くの物性研究者の興味を引きつけてきた.本稿では,さまざまな分光学的アプローチから評価されるダイヤモンドの興味深い光物性の一端を実験家の立場から紹介する.
ディラック半金属はグラフェンにおけるディラックコーンを3次元的なバルク状態の電子構造として持つ.それだけでなく,バルク状態と表面状態が結合した特異な電子状態を持つことから,次世代エレクトロニクスを担う物質系としても注目を集めている.本稿では,ディラック半金属の代表的物質であるCd3As2について,その基本的な特徴を説明した後,高品質薄膜の作製から特異な量子ホール状態の実証に至るまでの一連の研究成果を紹介する.さらに,将来の応用展開を見据えた今後の展望についてまとめる.
超伝導ダイオード効果とは,順方向には電気抵抗ゼロの超伝導状態になるが,逆方向には有限抵抗の常伝導状態になる現象である.この効果は,現在の電子デバイスの構成要素の1つである半導体ダイオードとの類似性から,超低消費電力で使用できるダイオードや整流器などさまざまな応用が期待されている.また最近,磁化によって制御されるゼロ磁場超伝導ダイオード効果が実証された.これは,磁化を利用して超伝導を不揮発に制御する新たな可能性を開くものである.ここでは超伝導ダイオード効果について解説し,将来展望を述べる.
我々は最近,冷却リュードベリ原子列を超高速レーザーで制御するという,これまでになかった組み合わせによって,新しい量子制御システムを生み出した.本稿では,この新しいシステムを支える2つの基盤技術,つまり原子列を構成する個々の単一原子を捕捉する光ピンセット技術,およびそれらの単一原子の量子状態を制御するレーザー技術について解説する.さらに,このシステムを用いて達成した量子スピード限界で動作する超高速2量子ビットゲートについて紹介する.このゲートは従来の冷却原子型量子コンピュータの2量子ビットゲートを一気に2桁加速する技術革新である.
高密度にドーピングされたことで金属状態にある高Hall移動度を特長とする酸化物透明導電薄膜におけるサイズ効果を紹介する.(3-α)次元超薄膜となる膜厚10nm(成膜時間は数秒)前後でのキャリヤ電子状態およびキャリヤ輸送の支配因子を議論した.キャリヤ密度を維持しながらの次元削減αが引き起こす格子秩序の乱れが室温環境下でのキャリヤ状態を局在化し,電子とフォノンとの相互作用が強くなることで電気・光学特性が大きく変化する.上記相互作用を決める3つの要素を明らかにする理論式を提案し展望を図る.
近年,さまざまな3Dプリント技術が開発され,樹脂,金属に加えて,セラミックスやガラスの3D構造体の作製も実現されている.しかしながら,造形可能サイズの拡大,加工精度の向上,作製時間の短縮など,いくつか課題が残されている.これに対して,我々は,数時間の脱脂・焼結でガラスやセラミックス部品を作製できる光造形技術と光硬化性材料を開発した.また,より高機能な3Dプリント部品の製造を目指して複数材料を用いたマルチマテリアル造形法も開発している.本稿では,光造形による多様なセラミックス部品の造形例を紹介する.そして,高速焼結が可能な光硬化性材料について述べ,ガラス3Dプリントへの適用例を紹介する.
フェムト秒レーザーを固体表面に複数パルス照射すると,アブレーションという剝離現象によってレーザー波長よりもずっと短い周期間隔の構造体が形成される.この構造体は光の回折限界以下の周期であることに加えて,固体表面にレーザーを照射するだけで形成されることから,微細加工技術への応用が期待されている.本稿では著者らが示してきた形成メカニズムと応用について紹介する.
「半導体の点欠陥を同定したい」といったときに有力な手段となるのが電子スピン共鳴(ESR)分光である.そのESRを半導体デバイス実物で測れるようにしたのが電流検出ESR(EDMR)となる.本稿では,筆者のEDMRシステムのかなり細かいノウハウと,EDMRを利用してMOSFETデバイス内の点欠陥を検出・同定した例を紹介したい.本稿によりEDMR技術の内情や可能性を感じてもらえれば幸いである.