多くの重要な過程が固体/溶液界面で起こっているが,その過程を理解するためには,固液界面の幾何・電子・分子構造を,反応が起こっているその場で原子・分子レベルで評価することが不可欠である.しかし,溶液の存在のために、真空中での表面構造解析の強力な武器である電子顕微鏡などの手法を用いることができない.ここでは固液界面に適用可能な代表的手法(走査型プローブ顕微鏡,放射光利用X線技術,非線形分光法など)を概説し,金単結晶電極表面へのPdの電析を例に種々の手法を複合的に利用することの重要性を示した.
光と磁気の相互作用を用いた磁気光学効果はさまざまな分野で用いられており,磁束観察においても重要な役割を果たしている.磁気光学磁束観察法(MOI)は,磁束を排除する性質を有する超電導体において空間分解能,リアルタイム性などに秀でた非破壊評価の方法として定着し,超電導線材の研究においてもなくてはならないものとなっている.ここではMOIと超電導線材の発展のあらまし,長尺超電導線材を測定する装置の紹介および磁束観察の結果を紹介する.
超音波イメージングは,生体内の様子を非侵襲的にリアルタイムで観察する手段として,医療現場で広く活用されている.近年では,単なる断層画像に留まらず,生体内の立体的な情報をリアルタイムに取得・表示することができるようになったが,情報量が増える中,必要な情報をいかにわかりやすく簡便に表現できるかが肝要である.超音波イメージングの基礎から,最新のリアルタイム3D/4D技術まで,その臨床応用や画像を交えつつ紹介する.
本稿では,高開口数対物レンズを用いてフェムト秒レーザーパルスをガラス内部に集光し,その後に生じるレーザー誘起現象を,ポンプ・プローブ干渉顕微鏡を用いて,パルス照射後1nsまで50fsの時間分解能と1µmの空間分解能で計測した結果を報告する.集光領域でのレーザー誘起ブレークダウンや,キャリヤ生成・拡散・再結合,熱弾性的な圧力波の生成と伝搬の時空間的変化を観測した.その結果,光軸方向と横方向の圧力波とが重なって,溶解物の流れや圧縮・固化・キャビテーションを生じ,最終的な加工形状としてボイドや高密度領域の形成へとつながる複雑な振る舞いを知ることができた.
PET(陽電子放射断層撮影)用分子プローブは,生体内で起こるさまざまな生命現象を外部から分子レベルで捉えて画像化するためのポジトロン核種で標識した分子である.臨床診断や生体機能の計測に有用なPETプローブを創出するため,プローブ候補の選択と設計,放射性核種の製造,標識技術の開発は必要不可欠である.本稿では,PETに用いる分子プローブの必要条件と標識技術を示し,代表的なPETプローブついて述べる.
グラフェンのデバイス応用には単結晶グラフェンが不可欠であり,その成長技術の確立に向け,グラフェン成長機構の理解が求められている.我々はこの目的に向かって,金属やSiC基板上でのグラフェン成長を電子顕微鏡により,その場観察してきた.本稿では,多結晶Ni箔上のグラフェンの偏析/析出を中心に,その場観察から明らかになったグラフェン成長過程を説明する.
機能性酸化物.この言葉を聞くだけで心踊らせる研究者は数知れない.酸化物研究の最大の魅力は,電子や格子の複雑な作用により多彩な機能が発現し,さらに,驚くべき物性が“いまだに”発見されるという点である.新奇物性探索の大きな原動力が薄膜作製技術であり,それを駆使して薄膜,ヘテロ構造や表面・界面において新機能を引き出すことが先端研究となっている.その薄膜作製の際に,酸化物の成長を原子スケール分解能でその場観察することにどのような意義があり,どのような結果が得られるのか.それを我々の研究結果を基にここで論じ,この研究の将来性の豊かさを強調する.
イオン液体は,常温でも液体状態の塩である.蒸気圧が極端に小さいため,真空下でも蒸発することはない.そこで,イオン液体を走査型電子顕微鏡(SEM)の中に入れて観察したところ,全く帯電せずに観察することができた.この発見を契機に,イオン液体中で電気化学反応を行わせ,それをSEMによってその場で観察する方法の開発を行っている.その研究の流れと,観察方法の基本的な原理と技術を概説する.
氷結晶の表面は融点以下でも融解し,擬似液体層が生成する.擬似液体層は融点近傍の温度で氷結晶の表面特性を支配するが,その動的な挙動を実験的に明らかにすることはこれまで困難であった.そこで我々は,氷結晶表面の単位ステップ(0.37nm高さ)を直接可視化できる光学顕微鏡を用いて,氷結晶の表面融解過程の直接可視化を試みた.そして,形態とダイナミクスが全く異なる2種類の擬似液体層が出現することを見いだした.2種類の擬似液体層は氷結晶底面上で動き回り,合体を繰り返した.擬似液体層についてのこのような描像は,1種類の擬似液体層が氷結晶上で均一に生成する,とするこれまでのものとは全く異なる.
拡散光を利用した分光計測は,丸ごとの生体や生きた細胞組織から得られる吸収・散乱スペクトル情報を解析することで生体の機能および構造情報を評価することができる.なかでも,定常白色光源を用いた拡散反射分光法(DRS)は簡易・安価な計測システムで実現可能であり,in vivo測定やイメージングへの展開も容易である.本稿では主に可視波長域の拡散光スペクトルおよび色彩情報に基づき,生体内の生理的変化に対する色素タンパク質(メラニン,ヘモグロビン)の挙動や細胞組織の構造変化をin vivoで評価するための方法について著者らの最近の研究を紹介する.
テラヘルツ(THz)波は,水や糖類,蛋白質などの生体高分子がこの帯域に特徴的な振動モードをもつことから,テラヘルツ波を用いたセンシングやイメージングへの応用研究が盛んである.バイオイメージング応用では高分解能に加えて,高速測定が要求される.本稿では,我々がバイオ応用を目指して開発してきたリアルタイムテラヘルツ近接場顕微鏡の動作原理,構成について紹介する.さらに,この顕微鏡を用いた測定例をいくつか紹介する.
太陽電池は,再生可能エネルギーの1つとして注目されている.現在量産されている太陽電池には,結晶Si太陽電池,アモルファスSi太陽電池,Cu(In,Ga)Se2太陽電池がある.本稿では,これら太陽電池の特徴について概説する.最初に太陽電池の動作原理について簡単に説明し,太陽電池が少数キャリヤ・デバイスであることを強調する.その後,各太陽電池の構造などを示しながら,それぞれの特徴を示し,最後にまとめを述べる.