スピン軌道相互作用(SOI)は物性物理において現れるさまざまな現象において枢軸的な役割を果たす効果であり,常に大きな関心を持って研究されている効果である.SOIの応用物性への活用の一例はスピン操作であり,外部磁場は用いずにSOI由来の有効磁場だけでスピンを操作することが可能で,かつその有効磁場の強さを外部電界で制御できるため,スピンベースの素子設計自由度を向上させ新機能を付与することを可能とする.このSOIの大きさは粗い近似の下では原子番号の4乗に比例するため,軽い元素であり,さらに結晶の空間反転対称性を持つシリコン(Si)は本質的に非常に小さなSOIしか持ちえない.一方,SiをチャネルとしたスピンMOSトランジスタではSiはSiO2ゲート絶縁膜により電気的に孤立しており,Si/SiO2界面で存在するRashba効果によって人工的にSOIをSiに誘起させることが可能である.本稿では人工ラシュバ場に起因するSi中のスピン緩和時間の異方性の観測と人工ラシュバ場のゲート電界による制御について筆者らの研究グループによる研究結果を紹介する.
電気伝導層が層状に積み重なった擬2次元構造を持つ酸化物は,電子系の異方性と多体効果により興味深い物性が現れる.本稿では,単体金属並みの高い電気伝導度を持つ層状酸化物,金属性デラフォサイトについて,基本物性と筆者の薄膜研究を紹介する.
窒化ニオブ(NbN)は,単一光子検出器や量子ビットに搭載されている超伝導材料である.興味深いことに,NbNはワイドギャップ半導体AlNと格子整合性が高いため,両材料の持つ機能をエピタキシャル成長によって融合できる可能性がある.しかしながら,AlNをはじめとする窒化物半導体にエピタキシャル成長させたNbN薄膜の基礎的な特性には不明な点が多い.本稿では,スパッタ法でAlN上に成長させたNbN薄膜の構造特性と電気特性について紹介する.さらに,AlNとNbNの結晶構造の相違がNbNの双晶を生み出すメカニズムを示し,NbN双晶の制御技術についても紹介する.
深紫外領域で動作する発光デバイス材料として注目されるAlGaNの励起子光物性に関する最近の研究成果として,AlGaN系量子井戸構造において励起子の関与が示唆される光励起誘導放出を観測した結果について紹介する.AlGaN系量子井戸構造において光励起誘導放出の温度依存性を評価し,温度上昇に伴って光学利得生成機構が,励起子が関与したものから電子‐正孔プラズマの再結合によるものへと変化する過程を観測した.さらに,室温において励起子が関与した光学利得生成機構が機能している可能性を示し,縦共振器モードを反映した微細構造を伴う光励起レーザー発振を確認した.
伝搬する電子を用いて量子光学的な実験を行う量子電子光学の分野では,制御対象が空間的に波動関数が大きく広がった電子から有限のサイズを持つ量子的な単一電子の波束にシフトしつつある.生成可能なさまざまな電子波束の中で空間的な広がりが最小のものが,表面弾性波の動くポテンシャルに束縛されて伝導する単一電子である.本稿では表面弾性波による単電子の伝送手法およびその量子的な伝導の制御について紹介する.
我々の生活には欠かせない存在となっている半導体デバイスは,電荷キャリヤである電子と正孔が実空間,および,エネルギー空間を動くことで動作している.本研究では,電荷キャリヤの動的特性から半導体材料の評価,さらには,デバイスのオペランド観察を目的とし,フェムト秒パルスレーザーを光源とする光電子顕微鏡の開発を進めている.光電子顕微鏡を検出器とすることで空間分解能,パルスレーザー利用による時間分解能に加え,パルスレーザーの光子エネルギーを紫外光領域で連続的に可変にすることでエネルギー分解能が加わり,高いシグナル‐ノイズ比で伝導電子ダイナミクスのイメージングが可能であることを実証してきた.本稿では,本装置の動作原理を解説し,絶縁性の高い有機EL材料のHOMOとLUMO準位測定と,単一のSi量子ドット内の電子ダイナミクスを観測例として紹介する.
DLTS法(Deep-Level Transient Spectroscopy)は,多くの半導体欠陥評価法の中の1つとして確立された技術です.バイアスパルスによるデバイス空乏層内の欠陥の荷電状態の変化を,空乏層容量の過渡応答により検出する方法で,従って電気的活性な欠陥(トラップ)の評価が行えます.デバイス特性に直接関与するトラップの評価法として有効です.本稿では,DLTS測定への入門・基礎として,接合ダイオードに対する温度掃引DLTS法の測定原理,DLTS信号の見方,測定の手順について説明します.