磁気共鳴イメージング(MRI)はNMR現象を原理とし,原子番号が奇数もしくは質量数が奇数の元素(水素,炭素,リン,など)が測定可能となる.マグネットで作られる時空間的に一定な磁場の中で,これらの元素に固有な周波数(共鳴周波数)の電波を照射すると共鳴現象を誘発する.
MRIは共鳴する元素に関する密度や化学的な結合状態などの空間分布,時間的な変化を計測することができ,空間的な分布を画像として提示する.現状では,医学,生化学,農学などへの展開が図られている.本論文では,MRIの原理,研究の最先端,医療において果たす役割を紹介する.
医用超音波技術は,非侵襲性,実時間性,簡便性,低コストという特徴から,現在では,臨床のさまざまな領域で,スクリーニング,精密検査のいずれにおいても欠かせないものとなっている.特に近年のデジタルビームフォーマに代表される診断装置のフルデジタル化の達成と,広帯域化や二次元アレイによるプローブ性能の向上により,超音波像の画質は飛躍的に向上した.さらに,超音波画像は断層像であるBモード,血流動態を捉えるドプラ法に加え,近年,組織性状に関する診断情報を提供可能な組織弾性イメージングが実用化されたことで,超音波画像診断の有用性がいっそう高まったといえる.ここでは,これらの超音波画像技術の原理や特色について解説してみたい.
核医学イメージング装置は,測定対象内にある放射性同位元素(RI)の空間的分布とその時間的変化を,放出される放射線を計測して調べる装置である.がん診断に適するRIトレーサを被験者に投与すれば,臓器や組織におけるがん細胞の活動や広がり具合を評価することができる.代表的な装置には,ガンマカメラ,単一光子放出断層撮像法(SPECT)装置,陽電子放出断層撮像法(PET)装置がある.また,それらにX線CT装置を融合させたSPECT/CT装置,PET/CT装置も普及している.過去10年で,PET検査によるがん診断・検診が急速に普及し注目を集めてきた.核医学イメージング装置は最先端の放射線計測技術の結晶であり,今後とも多様な技術革新が期待される.
人工心臓は,自然心臓のポンプ機能を代行して全身の血液循環を維持する装置であり,重症心不全患者に対する一時的使用や心臓移植までのつなぎとして広く臨床応用されている.また近年では,半永久的な使用を目的とした体内埋込み型人工心臓の開発・臨床応用も進められており,技術開発の進歩とともに臨床成績も急速に向上しつつある.このような次世代型の人工心臓システムは,心臓移植を受けることができない多くの重症心不全患者を救命するとともに,安全な長期間使用と高い生活の質を提供して社会復帰を実現し得るものであり,日常医療の一環となって多くの患者に福音をもたらす日が1日も早く訪れることが望まれる.
人工視覚は,視覚系神経への電気刺激によって失明者の視覚を再構築する人工臓器である.研究開発が始まり約半世紀が経過しようとしているが,いまだに多くの課題を克服する必要があり,実用化に至っていない.一方,再生医療や遺伝子治療など医学生物学的な失明治療法の研究が次第に成果を上げている.本稿では,従来の人工視覚と医学生物学的な研究手法を組み合わせたハイブリッド型人工視覚とその刺激電極について述べる.
金・白金元素が特定のエネルギーレベルのX線を吸収し二次電子線を放出することから,がん治療において白金複合体抗がん剤と放射線療法組み合わせは良好であることが報告されている.本研究は,現在がん放射線治療に用いられている白色X線を単色化すること,またがん組織における白金元素の濃度をドラッグデリバリーシステムを用いることにより上げることで二次電子線の放出量を飛躍的に増加させ,画期的ながん治療システムの構築を試みる研究である.
筆者らは,循環器系の異常と関係する生活習慣病(心臓病,糖尿病,脳卒中など)の合併症を超早期に診断することを目標として,液晶空間位相変調素子に基づく補償光学を利用した超高分解能の眼底イメージング機器の研究開発を進めてきた.本稿では,その最新成果の幾つかを紹介する.
半導体微細加工技術を用いて作製されるマイクロ流体デバイスやマイクロアレイチップなどのバイオチップ技術を細胞生物学や分子生物学と融合させ,個々の細胞やたんぱく質の直接的な操作・計測を可能にする新しいバイオ計測,生体分子改変システムの実現を目指した研究を行っている.本稿では,電気泳動チップによる1細胞の膜電荷計測による細胞の非侵襲診断技術,次世代の高速分子進化システムの構築を目指したマイクロアレイチップ技術について紹介する.
膜厚が数nmから数十nmのフリースタンディングな高分子超薄膜(ナノシート)は,高い柔軟性と接着性などユニークな特性をもっている.キトサンとアルギン酸の交互積層やポリ乳酸からの成膜をスピンコーティング法にて行い,センチメートルからメートルサイズのナノシートを作製した.ここでは,ナノシートの特性を簡単に紹介すると共に,皮膚や臓器の創傷部に簡便に貼付できる「ナノ絆〔ばん〕創〔そう〕膏〔こう〕」としての応用例を挙げながら,この材料の将来について展望する.
微生物の多くは単細胞生物であり,その力学的な運動メカニズムや生理学的機能を解明することは,「細胞」という生物を構成する重要な単位が有する潜在的な能力や機能を探るために重要である.我々は,微生物の動態観察や機能解明を高効率・高機能に行うために,フェムト秒レーザー三次元加工により作製したマイクロチップを利用することを提案した.このような微生物観察用マイクロチップはナノ水族館と呼ばれ,微生物研究分野に進展をもたらした.
表面プラズモンは光素子の小型化や高効率化にとって便利な道具になりうる.しかし導入の仕方を間違えると,単に損失源を追加するだけになってしまう.本稿では特に,光とエレクトロニクスの融合を必要とする受光デバイスと発光デバイスへの表面プラズモン技術の適用について,その意味を理解しやすいように動作機構の解説を行う.