アモルファス物質は準安定状態にあるため,光励起によって構造が変化しやすい.本稿では,光励起された非金属ガラスが現す種々の変形を概観した後,カルコゲナイドガラスで発見された巨大光変形について述べる.そのメカニズムは未知のところが多いが,少なくても初期のカール変形は,原子的な駆動力ではなく,光トルクによって発現しているようである.
希土類イオンや遷移金属イオンの非輻(ふく)射緩和を利用したレーザー結晶化法は,ガラス組成とレーザー照射条件の選択によってガラス転移および結晶化が起こる温度環境をガラス表面に作りだし,形態制御された機能性結晶のラインパターニングを可能にする.本稿では,結晶化に対するガラス化学に触れた後,レーザー結晶化によってパターニングされた特徴的な形態を示す光非線形性/強弾性結晶およびフッ化物結晶ラインについて,結晶の配向や光物性を紹介する.
テルライト光ファイバーの光信号制御への応用について述べる.テルライトガラスのラマンスペクトルの制御により,ラマン利得の広帯域化が図れ,従来の1.7倍もの利得帯域や石英ガラスの42倍もの利得係数を実現できることを示す.増幅帯域として,1460〜1650 nmのS,CおよびLバンド全体をカバーでき,石英ファイバーの2倍以上の帯域が実現できることを示す.誘導ラマン散乱および誘導ブリルアン散乱による slow light 生成特性の解析により,テルライト光ファイバーが高効率な遅延特性を有することを示し,光バッファ・光メモリーや高効率可変遅延線の実現にきわめて有望であることを明らかにする.特に誘導ブリルアン散乱による slow light 生成では,これまで報告された中で最も高い遅延効率3.76 ns/mW を確認した.また,中赤外域のスーパーコンティニューム光発生に有効であることを示し,テルライト光ファイバーが光波制御素子として期待できることを述べる.
ガラスはイオン伝導性の高い固体電解質材料を得るうえで理想的な特長を有している.ガラスのもつ大きな自由体積が,対応する結晶よりも高いイオン伝導性を与えるだけでなく,ガラスの加熱結晶化によって高温安定超イオン伝導結晶を安定化できるからである.有機電解液に匹敵する高いイオン伝導性を示すLi2S-P2S5 系ガラスセラミックが開発され,これを用いた全固体リチウム二次電池が試作された.高エネルギー密度の硫化物ガラス系全固体電池は,将来有望な次世代イオニクスデバイスである.
次世代の映像技術として,自然な立体感をもつ三次元ディスプレイの開発が最近注目されている.現在さまざまな技術が提案されているが,長年の研究・開発によってそれぞれが確実に進歩している.本稿では,三次元ディスプレイ技術について概説し,いくつかの例をあげて最近の進展を述べる.さらに,真の三次元像を形成できる手法の一つとして,筆者らが研究を行っている体積走査型三次元ディスプレイについて紹介する.
IBMによるRace-track memoryの提案以来,磁壁の電流駆動現象は精力的に研究され,昨年にはRace-track memoryの基本動作実証も行われた.しかし,現実的応用のためには磁壁を動かすために必要な電流密度の低減が不可欠である.本稿では,ブレークスルーの期待がもたれる垂直磁化膜における磁壁の電流駆動について最近の進展を述べる.
情報家電機器に搭載される光学ガラス素子の重要性が高まる中,今後の産業界にとって必須条件である製造エネルギーや環境負荷の低減と高機能素子の量産化を両立するためのグリーンプロセスとして,ガラスインプリント技術の基盤構築に取り組んでいる.反射防止,収差補正,偏光制御などの機能発現をめざして,光学ガラスの表面に微細な周期構造の形成を試みた.高い耐熱性と機械的強度を備えたSiCモールドを開発し,可視域でのガラス表面の反射率を1/20以下に低減できる反射防止構造や,可視全域で95 % 以上の回折効率を有するガラス・樹脂ハイブリッド回折格子などを試作し,それらを光学レンズの成形に展開した.
ガラスの高透過性と易成形性の特徴を生かした光ファイバーに,結晶の高機能性を付与した,アクティブな結晶化光ファイバーの創製を行った.透明結晶化ガラスをベースとしてダブルクラッド構造の結晶化ファイバーを作製し,このファイバーを用いた光デバイスが電気光学効果により可変光減衰器として動作することを紹介する.
近年,高分子の不均一構造を三次元的に実空間直接観察することにより材料の評価・解析を行う新しい実験手法(三次元イメージング法)が注目を浴びている.高分子混合系の相分離構造の三次元観察に用いられた共焦点レーザースキャン顕微鏡(Laser Scanning Confocal Microscopy : LSCM)に加え,高分子ナノ構造を三次元観察できる透過型電子線トモグラフィー法(Transmission Electron Microtomography : TEMT),不透明な高分子材料のμmスケールでの三次元観察を可能とするX線CT(X-ray Computerized Tomography : X-ray CT)の登場により,nmからμmにわたる広い空間スケールでの三次元イメージングが現実のものとなりつつある.本報では,これらのうちでも最近特に発展が著しいTEMTの装置・測定法の新展開と,高分子ブロック共重合体の相分離構造の解析例を紹介する.
偶然を契機にして道を切り開く能力(セレンディピティ)は研究開発プロセスの飛躍的発展を担うものの一つだが,その能力を発揮するには偶然が起きなければ始まらない.先人たちの経験から浮かび上がる共通項は,自ら手を動かし続けて偶然をつかむこと,であるが,本稿ではもう一つの視点を提示する.他人がもたらす偶然を呼び寄せるには,人を動かすプレゼンテーションを心がけるべし.偶然の連鎖で達成された筆者のファイバーヒューズ研究の経緯を例に取り,偶然の3分類に基づく考察を述べたのち,その応用となる研究者自身による情報発信(セルフアーカイビング)事例を紹介する.
陽子線励起X線を用いた元素分析法は,バックグラウンドが低く感度がよいため,さまざまな分野に用いられている.この分析法はPIXE法と呼ばれ,多数の試料を短時間で,しかも多元素を同時に分析できるため,非常に数量が多い環境試料の分析にも向いている. 室内の大気浮遊塵を一定時間間隔で採集し元素濃度変化の時間変化を測定した結果,土足厳禁の部屋は土足使用の部屋に比べ,5倍大気浮遊塵が多くなることがわかった.また,風向情報を用いると大気汚染源を同定でき,個々の黄砂粒子を分析することにより,有害黄砂を検出できることがわかった.さらに,河川水を多地点採集して分析することにより,金属元素の河川水による希釈効果が調べられることがわかった.このように,PIXE法を用いた環境汚染監視システムは,非常に有用であることがわかった.