プラズマプロセスの進歩が半導体デバイスの微細化・高集積化を促進してきたと言っても過言ではない.しかし,ナノ領域に突入した半導体デバイスでは,プラズマから照射される電荷や紫外線などによる欠陥生成や損傷は,バルクよりも表面積の大きいナノデバイスの場合に特性を大きく劣化させるものである.そのため,プラズマプロセスにおいて電荷蓄積や紫外線照射損傷の抑制や制御を実現できる手法の開発は必要不可欠であり,筆者らの開発した中性粒子ビームはプロセス表面において原子層レベルで欠陥生成を抑制し,理想的な表面化学反応を室温で実現できる画期的な方法である.本手法を用いて革新的ナノデバイスの開発が進行している.
Geを用いた電子デバイスは長い間忘れられた存在であったが,最近その研究が急速に盛んになってきている.これは,Siデバイスの限界がみえてきたということもあるが,Geを扱ううえでの難しさの理解が進み,それを克服する技術が開発されつつあることにもよる.本稿ではGeデバイスの何が問題であり,それをどのように克服できるか,またデバイスとしての性能を実際に向上させることができるかを我々のグループの研究成果に基づいて説明する.
インターネットに代表される通信分野において,光ファイバはなくてはならない存在になっている.光ファイバをベースに構成されたシステムは外部からの擾乱(じようらん)に強く,さまざまな分野で信頼性の高いシステムを構成することが可能である.本稿では,この光ファイバをゲイン媒質と導波路に用いてフェムト秒光パルスを発生するフェムト秒ファイバレーザーについて概説し,その応用技術であるテラヘルツ波の計測事例として自動車部品の塗装膜における非接触多層塗装膜厚検査装置に関して述べる.福島第一原子力発電所の事故後,ガンマ線カメラを用いた放射性物質の分布の可視化技術が話題となっている.コンプトンカメラは,装置内部で起こった「コンプトン散乱」のプロセスを記録し,そのエネルギー・位置情報を用いて,コンプトン散乱の運動学からガンマ線の到来方向を求めるカメラである.1970年代の初頭に初めて提案されたコンプトンカメラは40年の開発の歴史を経て,ようやく実用化されつつある.この技術が開発されれば,数百keVから数MeVのガンマ線の領域で「写真」が撮れるようになり,ホットスポットの可視化ばかりではなく,医療や非破壊検査などのイメージングへの応用が期待される.本稿では,最新の半導体センサ技術を用いて開発されたコンパクトなガンマ線イメージング用のコンプトンカメラについて,その現状を述べる.
ダイヤモンドは,高密度ドーピング膜が室温で低抵抗ホッピング伝導を示し,この伝導を使ったデバイス開発が行われている.この低抵抗ホッピング伝導を使うと,ダイヤモンドp型ボロンドープ膜のアクセプタ準位およびn型リンドープ膜のドナー準位が深くダイヤモンドが高抵抗であるという問題を克服できる.ホッピング伝導およびこのホッピング伝導を使ったデバイスには物理として未解決の問題が多い.また,ダイヤモンドの電子正孔再結合過程も,同じ間接遷移型半導体であるシリコンとは全く異なる.この再結合の機構の解明はダイヤモンド電子デバイスを理解するうえで重要である.本稿ではこれらの研究開発の現状を紹介する.
本稿では非共軸なCherenkov位相整合法を用いたテラヘルツ(THz)波の電気光学(EO)サンプリング技術について紹介する.従来用いられていた共軸(THz波とサンプリング光波が平行に伝搬(でんぱん)する)なEOサンプリングに対して,Cherenkov位相整合法による非共軸なEOサンプリングでは,利用できるEO結晶の種類とサンプリング光波の波長の自由度が大幅に広がる.またCherenkov位相整合法に基づく「ヘテロダインEOサンプリング」は,EO効果によるサンプリング光波の強度変化を直接検出するので,偏光制御素子が不要となり,EOサンプリングにおける検出光学系が大幅に簡便化される.
超短パルスレーザーによるフェムト秒の時間分解能をもつポンプ・プローブ法と,原子レベルの空間分解能をもつ走査型トンネル顕微鏡法を融合することで,時間・空間両領域で極限的な分解能を併せもつ新しい顕微鏡法の開発を進めてきた.最近,スピンの高速ダイナミクスを捉えることにも成功した.印加磁場を調整して歳差運動のラーモア周波数をレーザーの繰り返し周期に同期させると,歳差運動が共鳴励起される様子も観察され,g因子やスピンの緩和寿命を局所構造と対応させて評価することが可能になった.本稿では,単一量子井戸内でのスピン緩和の結果などを紹介し,新しい顕微鏡法の現状と今後の展望について概観する.
量子テレポーテーションに代表される量子情報処理は,固体に内在する量子もつれを巧みに利用することで,発光・吸収といった素朴な現象を通じて容易に実現できる.本稿では,近年脚光を浴びているダイヤモンド中の窒素空孔中心をスピンキュービットとして用い,量子中継など量子情報通信や量子情報処理に応用可能な研究について紹介する.