まず最初に太陽光発電を取り巻く昨今の状況を,CO2の排出削減目標という観点から眺めた.次いで,太陽光発電の研究開発に関するロードマップ,各種太陽電池の開発の現状を概説した後,これから本格的に実用化の時期を迎える薄膜シリコン系太陽電池の現状と将来展望を述べた.アモルファスSiシングル太陽電池に関しては,大面積モジュールの変換効率が6〜8% まで向上し,メガソーラーへの応用が始まった.一方,研究開発の焦点は,アモルファスSiと微結晶Siとのタンデム化へと移りつつある.これまでにアモルファスSi/微結晶Siタンデム太陽電池モジュールで13% を超す変換効率が報告されている.このほか,2025年以降の実用化を目指すトリプル接合太陽電池,さらには2050年を目指す革新型太陽電池として薄膜フルスペクトル太陽電池を紹介した.
テルル化カドミウム(CdTe)多結晶薄膜太陽電池は,CdTe光吸収層が太陽電池として優れた物性を有しており,簡単なプロセスで高速に作製できるため,高効率で低コストな太陽電池として有望である.日本ではCdの毒性のために製造・販売されていないが,欧米では実用化され,低価格な太陽電池パネルとして生産量を急速に伸ばしている.本稿では,CdTeの基礎物性,CdTe太陽電池の構造・作製プロセスおよび現状について述べる.
安全かつ豊富なシリコンを原料とするシリコン系太陽電池は,太陽電池の大規模普及に向けて今後ますます重要性を増すと予想され,薄膜シリコン太陽電池にも大きな期待が寄せられている.しかし,シリコン系材料は一般に光吸収係数が小さいため,高効率化・低コスト化に向けて,テクスチャー構造をはじめとする,いわゆる光マネジメント技術により太陽電池内部での光吸収を増やす必要がある.本稿では,薄膜シリコン太陽電池における光マネジメント技術について概説し,陽極酸化プロセスを利用した筆者らの研究を紹介する.
次世代太陽電池の一つとして研究開発されている有機薄膜太陽電池のうち,代表的な共役高分子/フラーレン系有機薄膜太陽電池についてその概要を述べる.また,筆者らが提案検討してきた相互浸透型ヘテロ接合素子についての最近の研究成果を紹介するとともに,効率改善のための今後の課題について述べる.
次世代の高効率太陽電池へ向けた新しいアプローチとして,半導体ナノ粒子における多重励起子生成の利用が注目されている.高エネルギー光を吸収した際に生じる多重励起子生成によって,従来は熱として散逸されていたエネルギーを利用して電流を生成することができるようになり,電気エネルギーへの変換効率が向上すると期待されている.本稿では,半導体ナノ粒子における多重励起子生成について,研究の進展を紹介する.
当社では実用サイズ(15cm×15cm)の多結晶シリコンセルの高効率化技術開発を進めている.最新の成果では,19.3% の変換効率(産業技術総合研究所測定)を得るに至った.この成果は,18% 台の変換効率を有する多結晶シリコンセルの量産化および20%以上の変換効率達成の可能性を示唆するものと考えられる.本稿では,高効率化を実現した新規製造プロセスに加え,低コスト化に向けたウエハーの薄型化に関する検討結果について紹介する.
フォトルミネッセンス(Photoluminescence : PL)イメージング法は,太陽電池用半導体基板の品質を高速かつ高空間分解能で評価することのできる手法として大きな関心を集めている.この方法では,半導体からのバンド端発光強度が少数キャリアライフタイムに比例することを利用し,その強度変化からライフタイムを下げる原因となる欠陥分布を求めている.著者らは,太陽電池用多結晶Si基板をフッ酸水溶液に浸した状態でPLイメージングを行う手法を開発し,基板1枚当たり1秒以下で微細な欠陥分布が得られることを実証した.PLイメージング法は,太陽電池基板だけでなくセルの品質評価法としても,急速に普及している.
色素増感太陽電池を搭載した世界初のソーラーカー「Aten-1」を作製し,2008年7月26日〜28日に秋田県大潟村で行われた国際ソーラーカーレース「2008 World Solar Car Rally」に参戦し,完走した.本稿では,ソーラーカー作製に至る経緯や作製中の苦難およびソーラーカーレース参戦の模様などについて述べる.
III-V化合物半導体を用いたタンデム太陽電池は,集光下で40%を超える変換効率を実現しており,大規模太陽光発電のカギとなる技術である.さらなる効率向上には,セル間の電流整合を満たすバンドギャップの組み合わせと格子整合を両立させる必要がある.われわれは,GeあるいはGaAsと格子整合しつつ,1.0〜1.2eVの有効バンドギャップをもつInGaAs/GaAsPひずみ補償量子井戸に注目し,ウエハー曲率の in situ 観察を活用したひずみの精細な制御を達成した.これにより,有機金属気相成長(Metal-Organic Vapor-Phase Epitaxy : MOVPE)による高効率な量子井戸挿入型タンデムセルの製造を目指している.
太陽電池モジュールの寿命は,変換効率などとともに発電電力のコストを決める要素である.長寿命化を進めるうえで短期間に寿命を評価する方法の開発は重要な課題である.一定期間,実際に稼働したモジュールの特性低下を精密に測定することにより長期の出力低下を推定し,低下量の分布や劣化モードまで推定することができることを示した.さらに,構成部材レベルで劣化の素過程の詳細を理解することを通じて,この方法は科学的根拠に基づく定量的な寿命評価法開発への指針を与えるものであることが示された.
本稿では,液滴エピタキシー法によるGaAs/AlGaAs系半導体ナノ構造の自己形成について,われわれのグループの最近の研究成果を紹介する.成長過程の最適化により,液滴エピタキシー法に不可避である低温過程に起因する問題を克服し,きわめて品質の高い格子整合系量子ドットが実現可能であることを明らかにした.また,結晶化過程や成長基板面方位を工夫することにより,同心二重量子リング・二重結合量子ドットなどを含む高度な形状制御や量子ドットの超高密度化など,優れた特徴を有するナノ構造の形成に成功した.
雑音に埋もれた信号を測定せねばならないという場面に出くわす読者も多いであろう.干渉を利用して,微弱な信号を測定する方法であるホモダイン検出,ヘテロダイン検出,ロックイン検出について,その原理,特徴を光を題材とした測定例を交えて説明する.