シリコン(Si)やSiC,窒化物半導体に代表される半導体は,それ自身がもっている結晶特性を十二分に発揮していないのが現状であり,さらなる特性向上が求められている.このためには,結晶中に導入される転位,不純物,そして結晶多形などの欠陥密度の制御が必須である.本稿では,結晶成長中と冷却中に導入される格子欠陥密度低減を目的として,実験とシミュレーションの融合の下に構築した結晶成長プロセスの提案に関する研究成果の紹介を行う.単結晶中の結晶欠陥は,一般に結晶成長時のみに形成されるのではなく,冷却中においても生成される.このために,欠陥分布の解析には結晶成長中,そして冷却中を考慮に入れた解析が必要であり,非定常で3次元空間を考慮に入れた総合的な熱流動解析と欠陥解析が必須となる.また,欠陥密度を定量的に予測するためには,実験結果との定量比較を行うことが必要であるが,これは高精度の予測手法の確立により達成できる.昨今の計算機の計算能力と計算アルゴリズムの発達により,結晶欠陥をある程度定量的に予測することは可能になった一方,さらに高精度で予測するには原子レベルと連続体レベルにおける欠陥解析手法の統合が重要な課題となっている.本稿では,欠陥形成の解析例について,原子レベルと連続体レベルの現象の統合に関する研究結果に加え,シミュレーション結果と実験結果の解析の融合に基づいた欠陥予測の将来展望も解説する.
グラフェンの単離以来,すでに約15年が経過した.この間にバンドギャップを有する2次元層状物質も登場し,世界的な競争において基礎物性/応用両面で多くの成果が得られているが,電子デバイス応用に関しては依然として材料自身の高い潜在能力を期待しての議論にとどまっている.本稿では,従来のSiO2/Siにおいて多くの研究により理解してきた界面描像と,グラフェンや代表的な2次元層状物質であるMoS2を比較しながら,2次元層状物質の高い潜在能力を引き出す界面制御技術について解説する.
新薬の開発および分子レベルでの生体機構の解明のためには,タンパク質分子の精密な3次元構造の情報が必要となる.このため,精密なX線構造解析を行うことが可能な高品質タンパク質結晶が必須であり,それらを育成するために外場などを利用したさまざまな手法の提案がなされてきた.しかし,多岐にわたるタンパク質結晶の全てを高品質化できる育成技術は,いまだ確立されていない.本稿では,これまであまり試みられてこなかった外場として電場を用いた高品質タンパク質結晶の育成技術について紹介し,そのメカニズムを熱力学的な観点から考察する.
我々は最近,二ホウ化マグネシウム(MgB2)に含まれるマグネシウムの正イオンを水素の正イオン(プロトン)と交換することにより,これまでにない水素とホウ素のみで構成される新しい2次元物質「ホウ化水素(HB)シート」が室温・大気圧下という温和な条件で生成することを見いだした.この物質は150℃以上の加熱や紫外線照射で自身の分解生成物として水素分子を放出する特性をもつほか,固体酸触媒として機能することが明らかとなった.
2液混合反応は化学の中心的役割を果たす.その全貌を理解するには,混合の初期過程を含む測定が必要である.一方,直径数十µmの液滴は,時間・空間的な精密制御が可能である.また液滴は,高効率の光共振器として振る舞うことが知られている.筆者らはこれらの液滴の特性を利用し,液滴衝突に誘起される物理・化学過程観測のための共振増強分光法を開発した.本稿では,同法を用いて解析した,液滴衝突の過程で起こる微小突起や準安定界面の生成過程,液滴衝突化学反応,および衝突液滴中での高次ラマン散乱光の発生について述べる.
あらゆる技術は道具として使い手の能力を拡大して便益をもたらしますが,ともすると望まれない結果を招きます.人工知能(AI)は道具としてのそうしたリスクをもちつつも,あらゆる技術を制御する切り札にもなる技術です.長期的なスタンスに立つ本稿では,諸科学技術の急速な進展に起因する人為的なGlobal catastrophic riskの急増について述べます.次に高度な人工知能技術がけん引することで実現しうる持続可能な人類の将来シナリオと,そこで必要となるハードウェアとそれを支える素材・材料について考えます.