グラフェン,カーボンナノチューブ(CNT)に代表されるナノカーボン材料は,その優れた電気的,熱的,機械的特性からさまざまな応用が期待されており,例えばリチウムイオン電池の導電助剤としてのCNTなど,一部はすでに実用化されている.一方,電子デバイスへの応用ではいまだ革新的なものが実現できているとは言い難い.我々はこれまで,ナノカーボン材料の電子デバイス応用に取り組んできた.ターゲットとしては,大規模集積回路(LSI)用の配線,トランジスタ応用など,いわゆるMore Moore的な応用に加え,最近では,More than Moore的なガスセンサ,高周波検波器など,新機能デバイスへの取り組みも進めている.本稿では,ナノカーボン材料に関し,More Moore的な取り組み,More than Moore的な取り組みに関する簡単なレビューを行うとともに,我々の新機能デバイスへの取り組みの一端を紹介する.
ダイヤモンドデバイス動作時の欠陥の影響,基板・エピタキシャル成長膜品質評価のために,「どこに」「どのくらい」「どういう種類」の欠陥があるかを評価する要請が増えている.本稿では,どういった手法で,どういう欠陥を見ることができるようになっているか,どのくらいの欠陥があるのかについて紹介する.
熱電変換によるエネルギーハーベスティングや,光・電子デバイスにおける放熱問題の重要性が増す中で,半導体における熱伝導制御技術に対する期待がますます高まっている.熱マネジメントの高度化のカギを握る「フォノンエンジニアリング」は,ナノスケールにおけるフォノン輸送の物理に立脚し,ナノ構造を巧みに利用することで,フォノン輸送および熱伝導制御を可能にする.本稿では,フォノンエンジニアリングが可能にする熱伝導制御の一例として,シリコンフォノニックナノ構造を用いた集熱について紹介し,フォノンエンジニアリングへの期待と展望について述べる.
2次元フォトニック結晶により実現した高Q値光ナノ共振器は,多くの研究者の興味を惹(ひ)きつけてきた.中でも,シリコンナノ共振器は,この15年余り,フォトニック結晶共振器の最高Q値を更新し続けたことにより,光エレクトロニクスの枠を越えて応用研究が進められている.現在では,1000万を超えるQ値が達成されているが,近年では,フォトリソグラフィを用いた大口径基板への大量作製においても,Q値200万が安定して得られている.今後は,さらに幅広い分野での利用が見込まれる.本稿では,この数年間になされたシリコン光ナノ共振器の超高Q値化について紹介する.
磁性体と半導体の性質を併せもつ材料である強磁性半導体は,1990年代からIII‐V族ベースの(Ga,Mn)Asを中心に世界的に数多くの研究が行われてきた.しかし,20年以上にわたるMn系III‐V族強磁性半導体の大規模な研究にもかかわらず,デバイス応用の障害となるさまざまな問題が残っている.本稿では,新しい強磁性半導体として,鉄系III‐V族強磁性半導体の結晶成長,基本的な磁気特性をはじめとする物性を紹介し,鉄系強磁性半導体の特色を生かした半導体スピンデバイスへの応用について議論する.
生体骨の機能診断は,現状の骨密度(アパタイトの密度)の評価だけでは不十分である.生体骨内のアパタイト結晶は,異方性の強い六方晶系の結晶構造を示すため,微小領域X線回折法をはじめとするさまざまな材料学的手法を駆使することで,骨基質中のアパタイト結晶のc軸配向性が骨機能を決定する骨質(Bone Quality)指標となる.
アパタイト配向性は,in vivo 応力,骨代謝回転,骨系細胞挙動に敏感であり,骨部位に応じた配向度合いを示す.したがって,骨配向性を指標とすることで,骨組織の再生や疾患形成過程の解明,創薬支援などに広く応用できる.加えて,細胞・分子・遺伝子レベルでの骨配向化機構の理解,配向化制御法や配向化を促進する骨代替材料・デバイスの開発が必須となる.
半導体の空準位のエネルギーや状態密度は,電子伝導や化学反応性などに関わる重要な情報である.逆光電子分光法(IPES)は,この空準位を調べる最も有力な実験手法である.これは占有準位を調べる光電子分光法(PES)の逆過程と見なすことができる.しかし,IPESは信号強度が非常に低く,実際の測定に使われる紫外域での断面積はPESの10-5しかない.そこで,我々は表面プラズモン共鳴(SPR)に注目した.SPRはラマン分光や蛍光分光などの光が関与する分光法の信号強度を増強することが知られている.従来のIPESではSPRと波長が合わなかったが,独自に開発した低エネルギー逆光電子分光法(LEIPS)では近紫外光を検出するため,SPRによる増強が可能になった.
誘導放出制御(STED)顕微鏡は,数多く提案されている超解像蛍光顕微鏡の中でも,蛍光スポット(励起状態の空間)自体を回折限界以下に制限しながら走査して測定するという特徴をもつことから,バイオイメージングだけではなく,さらに一歩進んだ実験も行える可能性を秘めています.本稿では,STED顕微鏡を構築する際のさまざまなコツについて解説します.