波の性質を利用したレンズを使う光学顕微鏡や電子顕微鏡の歴史を最初に簡単に紹介する.次に,レンズを使わず小さいプローブを試料表面に接近させて走査する,走査型トンネル顕微鏡(STM),原子間力顕微鏡(AFM),そして走査近接場光学顕微鏡(SNOM)の発明により,走査プローブ顕微鏡(SPM)の概念ができるまでの歴史を紹介する.最後に,STMやAFMを中心としたSPMの最先端の現状とSPMの将来の動向や夢を紹介する.
現在の半導体メモリーで巨大市場を形成している製品は二つあります.一つは,PC(Personal Computer)などのワーキングメモリーとして用いられるDRAM(Dynamic Random Access Memory),もう一つが,デジタルカメラで使用するメモリーカードなどに内蔵されているフラッシュメモリーです.
「半導体A」では,2006年にDRAM の微細化限界の打破を目指したメモリー技術を特集しました.当時と比すると,半導体デバイスの微細化の最先端はDRAM からフラッシュメモリーに明確に移り変わり,フラッシュメモリーは急速に大容量化が進められてきました.微細化を用いた大容量化により新しい応用が開拓され,ノート型PC のHDD(Hard Disk Drive)代替としても用いられるようになってきています.このように,フラッシュメモリーの大容量化に対する市場の要求はとどまるところがなく,数年後には市場規模でもDRAM をも凌(しの)ごうとしています.
微細化が進んだ結果,隣接するメモリーセル間の干渉の増大,低電圧動作の実現に必須の容量結合定数確保の困難化など,フラッシュメモリー特有の課題が生じ始めており,これらの課題を解決できる新しい構造のフラッシュメモリー,さらには別の原理を用いたメモリーへの期待が高まっています.こうした現状を踏まえ,特に注目を集めている新原理不揮発性メモリー技術を特集することにしました.
総合報告では,強誘電体メモリー(FeRAM),磁気抵抗変化メモリー(MRAM),相変化メモリー(PRAM),抵抗変化型メモリー(ReRAM)などの新原理不揮発性メモリーについて,動作メカニズムや将来的に期待される性能について概観します.これに続き,最近特に進展が目覚ましく注目が集まっているReRAM,三次元積層メモリーといった個々の研究,さらにはこれらのすべての半導体メモリーの発展に欠かせない分析技術を取り上げます.最新の半導体メモリー技術に関するこれらの記事によって,優れたメモリー特性を得るための材料技術,微細化・大容量化をしやすくするデバイス構造技術,その構造を実現するプロセス技術を中心に,新原理不揮発性メモリーの現状,将来性を論じます.
本特集により,将来的にはフラッシュメモリーを上回る大容量化を目指す新原理不揮発性半導体メモリーの研究の現状を読者の皆様に理解していただき,将来のブレークスルーに向けた研究がより活発化することを期待いたします.
不揮発性半導体メモリー技術の現状を概観した.フラッシュメモリーに高集積化の限界が見え始め,これに代わる新メモリーの提案が活発である.新型の不揮発性メモリーはフラッシュメモリーと異なり,電荷蓄積によらない原理に基づく.超高集積NAND型フラッシュメモリーをPRAMやReRAMが置き換える可能性が議論されるが,課題も多く,置き換えは容易ではない.一方,フラッシュメモリーの高い動作電圧,遅い書き換え速度,有限の書き換え回数などの弱点をカバーする分野でFeRAMやMRAMが浸透し始めている.新型不揮発性メモリー実用化には,フラッシュでは実現できない新しい分野で製品化を果たし,技術を育てる発想が求められる.
リソグラフィー技術による微細化のみに頼らずに大容量メモリーを実現するために,三次元積層メモリーの開発が活発化してきている.三次元積層メモリーの実用化のためには,大容量化と同時にビットコストを低減するために,メモリー1層当たりのコストを可能な限り抑制することが重要となる.本稿では,「積層数が増えてもリソグラフィーの回数が増えない」という概念に基づき考案されたBiCS技術,および本技術をフラッシュメモリーに適用した例について概説する.また,開発課題の一例として,メモリー素子を構成する多結晶シリコン縦型トランジスタの特性向上技術について紹介する.
金属酸化物を上下電極で挟んだ積層構造に,電圧パルスを印加することで発現する不揮発性の抵抗変化現象を利用した抵抗変化型メモリー(ReRAM)は,次世代の不揮発性メモリー候補の一つとして注目を集めている.本稿では,さまざまなReRAM材料の中で,CMOSプロセスとの親和性が高い二元系金属酸化物,特にNiOの抵抗変化特性に関する最近の進展について解説する.抵抗変化のメカニズムに基づいた素子の設計と制御により,従来問題となっていた特性の多くが解決されつつある.その結果,低消費電力かつ高速な書き換え動作を安定に実現できることがわかってきた.
光コヒーレンストモグラフィー(OCT)は低コヒーレンス光干渉をベースとする断層イメージング技術であり,医療現場で,ミクロンオーダーの空間分解能で生体表皮下の断層イメージを取得できる画期的な技術である.すでに,網膜や動脈硬化症の臨床診断に利用されており,さらなる臨床医学や生命科学の要求に応じて,高分解能化,高速化を中心に,OCTの技術開発が精力的に進められている.本稿では,OCTの原理と医療応用について述べ,続いて,最近のOCT技術の進展を紹介し,その将来を展望する.
窒化物半導体発光素子のさらなる長波化のため,従来のc面基板とは異なる面方位の基板上への結晶成長・素子作製が盛んに研究されている.非c面基板上の量子井戸活性層では,c面では見られなかった基板面内の光学的異方性が現れるため,発光素子の構造設計において偏光特性を考慮することが非常に重要となる.本稿では,この偏光特性が,基板面方位,量子井戸構造,ひずみ成分,材料パラメーターなど,さまざまな要素の絡み合いによって決定されることを紹介し,非c面基板上の半導体レーザーの構造設計との関連も議論する.
大気圧で発生する熱プラズマは高温かつ高活性であり,プロセスに応じて自由にガスや原料を選択できるという特徴があることから,さまざまなナノ粒子合成プロセシングが開発されている.本稿では,ナノ粒子合成のための熱プラズマプロセスの特徴を紹介する.セラミックスや金属間化合物ナノ粒子の合成に関する研究例とそれぞれの課題,および均一核生成・粒子間凝集・不均一凝縮過程を経るナノ粒子の生長機構のモデリングと解法について解説し,組成と粒径の制御の可能性について述べる.
走査型トンネル顕微鏡(STM)は,固体表面の形状を原子レベルの分解能で測定できるだけでなく,半導体の表面ポテンシャル分布や表面直下にある個々のドーパント不純物原子の位置を検出できる.そのためには,原子レベルで平坦で表面準位のない表面を用意しなければならない.NH4F溶液処理で原子的に平坦化し,水素化したSi(111)面では,pn接合境界でのドーパント原子の統計的なばらつきが,表面ポテンシャルの揺らぎを与えていることが解析できる.また,極薄酸化膜上に形成したC60 単分子膜の分子準位を探針からの共鳴トンネリングで検出することで,表面ポテンシャルの定量測定が行える.ここでは,これらの測定例とその機構を紹介する.
金属/Si酸化層/3C-SiC/Si/金属の構造の3C-SiCを用いた抵抗変化型不揮発性半導体メモリーを提案した.3C-SiCを酸化して形成されるSiOx(0<x<2)不飽和Si酸化膜の形成に起因した欠陥準位での電子の充放電で,素子が高抵抗状態と低抵抗状態間で遷移する.本メモリーは環境軽負荷材料を主体とした素子で,また,3C-SiCは確実な深い電子捕獲準位の形成など,素子構造と素子動作に重要な役割を担っている.本メモリーはダイオード型と非ダイオード型の二つの電気的特性が得られており,ファームウエアや大容量メモリーとして期待される.
次世代の揮発性有機化合物の処理技術として,低温プラズマを用いた手法が多くの研究者によって検討されている.実用に際しては,プラズマ反応器の後段に触媒反応器を設置した手法が採用されている.しかし,その用途はまだ限られており,汎用性を高めるためにさまざまな複合化法が提案されている.特に高効率化を達成するうえで,一段で触媒を複合化する方法は,短寿命活性種の利用やプラズマ駆動触媒作用が期待できるため関心が高まっている.本稿では,これらの研究開発動向と産業技術総合研究所で行っている二段式と一段式のプラズマ法の実際について紹介する.