NanoTerasu(ナノテラス)の運用開始が,2024年4月に迫っている.東北大学青葉山新キャンパス(仙台市)に建設中の次世代放射光施設のことである.放射光施設といえば,1997年に運用開始した兵庫県のSPring-8(スプリングエイト)が,一般には,よく知られている.約4半世紀を経て,国が整備・運営する施設が新たに登場するのである.光を生み出す加速器技術は,スプリングエイトで磨かれてきた,我が国の放射光科学の独自技術に基づく.しかし,スプリングエイトとナノテラスでは,使い道が全く異なる.硬X線の利用に強いスプリングエイトに対して,ナノテラスは軟X線の利用に強みを持つからである.この強みを活かし,脱炭素社会の実現など,直面する多くの社会課題の解決に挑戦する.その一端を詳解する.
本稿では,ハフニウム系強誘電体薄膜を用いた不揮発性メモリトランジスタに関して概説する.シリコン基板上に形成可能な強誘電性ハフニウム酸化膜(HfO2)およびハフニウム窒化膜(HfN)を,MOSFETのゲート絶縁膜として用いた,強誘電体ゲートトランジスタMFSFETへの応用について説明する.さらに,MONOS型フラッシュメモリ構造に強誘電性HfO2を導入し,分極特性と電荷蓄積特性を融合することによりしきい値電圧を高精度に制御する不揮発性メモリトランジスタFeNOSについて説明する.
近年目覚ましい成果を挙げて着々と社会実装が進む機械学習に,量子コンピュータが持つ計算能力を応用できれば,もっと高度なことができるようになるかもしれない.この素朴な期待から,量子コンピュータを機械学習に応用しようという試みが2010年代からスタートした.最近では量子コンピュータハードウェアの発展も相まって,特に現在あるいは近未来の量子コンピュータを念頭に置いたアルゴリズムの開発が進んでいる.本稿では,量子コンピュータを用いた機械学習について,最近の展開を概説する.
分子線エピタキシャル結晶成長により,シリコン基板上に大容量の化合物半導体GaAs系ナノワイヤを合成した.また,窒素・ビスマスを含む混晶量子構造,自己形成微細構造,準安定相利用,酸化物への材質変換などを駆使し,新しいナノワイヤの機能を探求した.これらが示した高効率な可視光吸収,可視から赤外までを網羅した発光,非線形光学効果などから,多彩な機能発現の展望を示す.
π電子系から成る有機半導体は,室温付近で塗布法により成膜でき,軽量性,機械的柔軟性に優れるなどの特長から,モノのインターネット(IoT)向け無線認識(RF-ID)タグや多目的センサなどのハイエンドデバイスへの応用が期待されている.10cm2/Vsを超える高移動度有機半導体中のキャリアがバンド伝導的であることが報告されて以来,筆者らが中心となり,バンド伝導理論に基づいた独自の分子技術により,有機半導体の材料研究を展開してきた.本稿では,筆者らが最近取り組んでいる分子軌道混成による高移動度有機半導体の創製のための最先端分子技術について紹介する.
幅広い分野で撮像用デバイスとして使用されているCMOSイメージセンサは高感度化のためのノイズ低減が課題であり,その要因となるSiO2/Si界面における界面準位密度の低減が必須であったが,従来の水素アニーリング法では界面準位の低減が不十分となる懸念があった.本研究では炭化水素分子イオン注入領域が水素を捕獲し,さらに追加熱処理時に捕獲された水素が拡散することによって界面準位密度が低減可能であることを明らかとした.このような手法はこれまでに報告事例がなく,シリコンウェーハに新たな付加価値を付与できる可能性を見いだした研究である.
近年,ダイヤモンド中のNVセンタを用いた量子計測が注目を集めている.量子計測というと敷居が高そうに聞こえるが,NVセンタの場合,蛍光強度計測を通して量子計測を実現すればよく,さらに,それを単一光子検出器が生成するパルスを計数することで達成すればよいので,計測器の心臓部は論理回路でいうところカウンタになる.本稿では,NVセンタの特性を示しつつ,その電子スピン状態を比較的に安価なFPGAボードを用いて計測した例を紹介する.