超伝導量子コンピューターに向けた研究が順当に進められ,多くの成果を上げつつある.その中心を担うのが,ジョセフソン接合に基づく量子ビットの研究である.本稿では,この量子コヒーレンスを操る巨視的系の科学技術がどのようにして生まれ,どのようなものであり,それがどこに向かって進んでいるのか解説する.進展は目覚ましいが,未解決の問題が山積みされている分野であり,多くの研究の機会が開かれている.
物質と光の基本的な相互作用を光子1個のレベルで取り扱う共振器量子電磁力学と同等な実験を,超伝導量子ビットとマイクロ波光子を用いたマクロな系で行う研究が進展している.巨視的量子系である超伝導量子ビットとマイクロ波光子の相互作用は,原子と光子の相互作用に比べると何けたも強く設計可能なため,実験に必須な強結合条件が比較的容易に実現でき,さらに,さまざまな物理パラメーターが電気回路的に可変である大変魅力的な系であることもわかってきた.このような超伝導回路を用いた共振器量子電磁力学実験の結果を踏まえ,超伝導量子ビットと光子との強い相互作用を利用した量子計算実現のカギを握ると考えられている量子バス(qubus)動作の原理確認へ向けた研究について解説する.
超伝導量子ビットは,集積回路プロセスを利用して大規模な量子計算システムへの展開が可能なデバイスであることから,活発な研究が進められている.一方,単一磁束量子回路は高速性と低消費電力性に優れ,近年,大規模な回路の動作実証が行われている.単一磁束量子回路を超伝導量子ビットの制御に用いることで,量子ビットを正確かつ高速に操作,観測することが可能となり,大規模な量子計算システムを実現することができる.本稿では,単一磁束量子回路を超伝導量子ビットの制御に用いた量子計算システムについて概説する.また,量子ビット操作のためのマイクロ波チョッパー,ならびに量子ビットのエネルギー準位を観測するための回路について紹介する.
高温超伝導体の結晶中に自然に形成されるジョセフソン接合を利用した量子ビットの実現が期待されている.しかし,量子ビット応用の観点から,これらの量子物性はまだ十分理解されているとはいえず,その解明が重要な課題となっている.本稿では,高温超伝導体の一つであるBi-2212を用いた,巨視的量子トンネリングとマイクロ波による共鳴励起に関する実験結果を紹介し,高温超伝導体量子ビットに関する研究の現状について述べる.
2008年2月23日,LaFeAsO1-xFx が臨界温度(Tc)26 Kの超伝導を示すという筆者らの論文が,米国化学会誌の電子版で公開になった.本稿では,この発見までの研究の流れと,それ以降の進展について記述する.これまでの研究で以下の事項が明らかになった.①これまでに報告された鉄系高温超伝導体は,いずれもFeイオンの正方格子を有し,フェルミ準位は主にその3d軌道からなる.②高い Tc を示す系の母物質は,低温で構造相転移が生じる.③電荷調整層のみならず,伝導層のFeとAsも,深刻な Tc の低下なしに,部分的にほかの元素で置換が可能であり,結果として膨大な数の候補物質が存在する.
Geチャネルは,ひずみSi以降のMOSFET高電流駆動力手法として注目されているが,良好なMOS界面特性とSi基板上への高品質Geチャネルの形成が,実用化のカギとなっている.本稿では,Ge MOS界面の高品質化技術の最近の動向を紹介し,特にSiパッシベーション技術とこの技術を適用したpMOSFETの電気特性について述べる.また,微細MOSFETとして,バルクGe上に形成したサブ100nmのゲート長のpMOSFET,さらに酸化濃縮法を用いて作製した最小ゲート長26nmまでのSGOI/GOI MOSFETについて,その構造と電気特性を紹介し,加えて,今後のGe pMOSFETの性能ブースター技術について簡単に述べる.
不揮発性メモリーとして広く使われていたハードディスク,フロッピーディスクおよび磁気テープを置き換える半導体メモリーとして,フラッシュメモリーの発明から商品化までの経過を述べる.フラッシュメモリーは,NOR型フラッシュメモリーとNAND型フラッシュメモリーがあり,それぞれのフラッシュメモリーの動作原理および特徴を述べる.NOR型フラッシュメモリーはNAND型フラッシュメモリーより高速読み出しが可能であり,NAND型フラッシュメモリーはNOR型フラッシュメモリーより書き換え回数が多く,1bit当たりのコストが安くできるため,広く磁気メモリーの置き換えに最適であることを述べる.
沿岸海域における環境モニタリングにおいて,流速や水温・塩分など物理的な項目については,計測センサーの開発によって,時間的にも空間的にも密に計測できるようになっている.しかし,海域を適切に管理するためには重要な化学的・生物的な項目の計測は,いまだに採水や化学分析に依存しており,詳細な動態が把握できていない.ここでは,紫外域,可視域の光を使った新しい化学・生物モニタリング手法について概説する.