国際プロジェクトEHTが天の川銀河の中心核の巨大ブラックホールの姿を写真に捉えることに成功した.この成果は,楕円(だえん)銀河M87の中心の巨大ブラックホールの写真に続く2例目の成果である.本稿では,EHTによる巨大ブラックホール撮影の意義や撮影方法,そして今後の展望などについて天文学分野外の方に向けて分かりやすく解説する.
代表的な「構造化された光」である光渦は,その螺旋(らせん)波面に由来する軌道角運動量を持つ.光渦の螺旋波面で決まるキラリティーと軌道角運動量は,レーザーアブレーション加工などを通して,物質に転写されて,本来,キラリティーを持たない物質の表面にキラリティーを有する構造が形成される.これをキラル秩序化と呼ぶ.光渦からその混成モードである花弁モードや光スキルミオンの基本概念を説明する.また,光渦が誘導するキラル秩序化の事例を紹介するとともにその将来展望について概説する.
コンタクトレンズ型ディスプレイは,非侵襲なARディスプレイの最終形態であるが,コンタクトレンズに内蔵したディスプレイの画面は近すぎて目がピント合わせできないといった根本的な問題がある.本稿では,この問題をホログラフィ技術を用いて解決するホログラフィック・コンタクトレンズの原理について説明し,基礎実験の結果と実用化に必要なデバイス技術について述べる.
集積化ガスセンサを用いることで,Internet of Things社会でヒトや動物の嗅覚が用いられてきたアプリケーションをガスセンサで置き換えることが期待されている.本稿では,イオン液体,多種類の電極と外部のトランジスタを組み合わせて構成される集積化ガスセンサについて紹介する.構造や特徴,センシング機構について述べ,機械学習を援用した混合ガス中の呼気相当の微量ガス検知への応用を示す.
無機材料から成る無機ナノ粒子は,それ自身で秩序的に配列して高次構造化することは難しいが,結合相手を選択して結合することができる選択的結合性の分子であるDNAをガイド役として表面修飾すると,ナノ粒子間の相互作用と結合を制御して思いどおりの結晶構造へと組み上げることができる.本稿では,X線小角散乱を用いた構造解析により結晶性を精密に評価することで,水和状態のみならず,乾燥後も結晶対称性を維持できるDNA修飾ナノ粒子超格子の構造条件を見いだすことに成功した筆者らの最近の研究を紹介する.
ダイヤモンド中の窒素‐空孔(NV)中心のスピンは,室温下で優れたスピン特性を有することから,量子情報処理デバイスや量子センサなど室温動作可能な量子デバイスへの応用に向けた研究が盛んに行われている.通常NV中心のスピンは光学的に検出されるが,現在のエレクトロニクス技術との相性が良く,量子デバイスの集積化や高度化に重要な技術としてNVスピン状態の電気的検出技術が注目されている.本稿では,筆者らが明らかにしたNVでスピン状態の電気的検出原理解明と14N核スピンのEDENDOR検出の結果について紹介する.
光電子分光は物質に束縛された内殻電子や価電子の状態密度を計測して物質の化学状態を知る手法である.さまざまなデバイスにおいて,動作中と動作していない場合で,材料の化学状態が大きく異なることから,デバイスや材料を真に理解するためには,動作環境中の測定であることを意味する「オペランド測定」を実施することが重要である.また,顕微光電子分光は,選択した場所の電子状態を解析することが特徴であり,粒子内部や材料の界面などを解析することができる.最先端の放射光を利用したオペランド顕微光電子分光を実施することで,実用デバイスや実用材料の解析が大きく進展することが期待される.