応用物理
Online ISSN : 2188-2290
Print ISSN : 0369-8009
91 巻, 12 号
『応用物理』 第91巻 第12号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
今月のトピックス
今月号の概要
解説
  • 米田 安宏
    2022 年 91 巻 12 号 p. 729-735
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/01
    ジャーナル フリー
    電子付録

    強誘電体はキャパシタ,メモリやセンサ材料など多岐にわたって利用されてきた.強誘電体材料の多くは複雑な組成の固溶体で構造は平均化される.特にリラクサ強誘電体などの擬立方晶構造の分極発現機構を明らかにするには従来型の周期的構造を仮定した平均構造解析だけでなく,局所構造解析を行わなければならない.2体相関分布関数法は粉末X線回折から動径分布関数を導出し,周期的構造を仮定せずに実空間でモデルフィッティングを行う局所構造解析法である.ビスマスフェライトとチタン酸バリウムの固溶体を例に強誘電体における局所構造解析の必要性について考察したい.

研究紹介
  • 大塚 慶吾, 加藤 雄一郎
    2022 年 91 巻 12 号 p. 736-739
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/01
    ジャーナル フリー

    トランジスタに代表されるようなデバイスの微細化が続き,原子サイズという究極的な限界に近づくに従い,原子レベルで精密な構造に基づく技術の出現も現実的になりつつある.そのような原子精度技術の世界では,定まった原子配列を有する構成要素と清浄な界面がデバイス作製の鍵を握るはずである.そこで本稿では,原子精度の構成要素を組み込んだデバイス作製手法として,所望の原子配列を持つカーボンナノチューブを決定論的に配置するためのドライ転写技術について,ヘテロ構造の作製例を挙げながら紹介する.

  • 島﨑 佑也
    2022 年 91 巻 12 号 p. 740-744
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/01
    ジャーナル フリー

    結晶格子のモアレ干渉を利用した超格子である2次元物質のモアレ格子系は,電子や励起子の多体系物理を研究するための新しいプラットフォームとして注目を集めている.特にツイスト2層グラフェンにおいては電子輸送研究により,超伝導相や多彩な絶縁電子相の発見が相次いでいる.半導体2次元物質である遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)においては光学測定による励起子物性の研究が盛んに行われてきた一方で,輸送測定の難しさからモアレ格子系の電子物性の探索は十分になされていなかった.本稿では半導体TMDのモアレ格子系において励起子共鳴を利用することで光学分光測定から電子物性の探索を行い,強相関電子状態を発見した成果について紹介する.

  • 吉川 貴史, 齊藤 英治
    2022 年 91 巻 12 号 p. 745-749
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/01
    ジャーナル フリー

    電子の熱運動を介して温度勾配から電圧を生み出すゼーベック効果は,熱電変換技術の根幹を担ってきた.また近年,この電子スピン版であるスピンゼーベック効果が見いだされ,電子スピンの熱揺らぎを,スピン流を介して電圧に変換することも可能となった.しかしこれらの熱電現象は電子由来に制限されており,低温域では電子系のエントロピー凍結により抑制されてきた.本稿では最近我々が観測に成功した,固体中の核スピンを利用した熱電変換現象―核スピンゼーベック効果―について報告する.大きな核スピン(I=5/2)と強い超微細相互作用を示すMnCO3とPtの接合系において,極低温100mKまで増大する熱起電力を見いだし,その振る舞いが約30mKという小さなエネルギースケールで熱励起が可能な核スピンに由来することを示した.本実証により“核スピンの利用”という,低温域の熱利用技術に対する新しい視座が得られた.

  • 安田 憲司
    2022 年 91 巻 12 号 p. 750-754
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/01
    ジャーナル フリー

    分極の方向を電場によって制御可能な強誘電体は,情報の保持が可能な不揮発性メモリとして機能する.不揮発性メモリの微細化のうえでは,強誘電体の薄膜化が重要であるが,従来の強誘電体では薄膜化が困難であり,物質科学的にこの問題を解決する必要があった.この問題に対し我々は,ファンデルワールス積層構造と呼ばれる構造を作製することで人工的に2次元強誘電体を作り出した.もともと強誘電性を持たない層状ファンデルワールス化合物である窒化ホウ素に対して,積層構造を人工的に変えることで強誘電体へと変化させることに成功した.得られた強誘電体はナノメートル以下の厚さにもかかわらず室温まで安定であり,これを用いて我々は不揮発性強誘電体トランジスタを実現した.さらに我々は半導体遷移金属ダイカルコゲナイドを同様に強誘電体へと変換することで,本設計指針の汎用(はんよう)性を実証した.

  • 村上 陽一, 池田 寛
    2022 年 91 巻 12 号 p. 755-758
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/01
    ジャーナル フリー

    世の中には冷却により取り除かなければならない熱が多く存在する.エンジンなどの熱機関,データセンターのCPU群,パワー半導体,バッテリなどの運転に伴い生じてしまう排熱がそれである.これらの熱には冷却の義務が伴う.従来の固体ベースの熱電変換は,発生場所から外に出たあとでまだ利用価値が残存している廃熱についてエネルギー回収を行う試みが大半であった.他方,積極除去の義務が伴う「発生場所から発生しつつある熱」については,その冷却と熱電発電を統合した技術は未開拓であった.筆者らは2015年より強制対流冷却と「液体側で行う熱電発電」とを統合する新技術を開発してきた.2019年には発電密度が0.5W/m2以下だったが,改良によって2021年には10W/m2と急増させている.本稿では本技術のコンセプトと成果の概要を紹介する.

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