多様かつ複雑で大規模な実問題を高速に解きうる誤り耐性型汎用(はんよう)量子コンピュータの開発が期待されている.その実現に向けては量子ビットの高忠実度と高集積度の両立が必要である.さまざまな物理系でその研究開発が進められており,半導体量子ビットも有力な候補の1つとなっている.本稿では,半導体量子ビットについて,基礎知識を概説した後,高忠実度化に関わる研究開発と,高集積化に向けたさまざまな取り組みや周辺技術の研究開発について,その世界的な動向を紹介する.
地球観測衛星に搭載される赤外検出器は優れた性能が要求される.JAXAでは従来の地球観測衛星で広く使用されてきたHgCdTe検出器に代わる,次世代の赤外検出器として,Type II超格子赤外検出器の研究を行っている.本稿ではJAXAで研究中のType II超格子赤外検出器について,その原理と現在の開発状況について解説する.
近年の人工知能(AI)の驚異的進歩に見られる社会の一層の情報化の中で,光の役割は,通信や計測のみならずコンピューティングへ拡大しつつある.本稿ではAIの基本機能の一角を成す強化学習・意思決定課題を,光を用いて高速化・効率化する研究の最近の展開をレビューする.具体的には,レーザー光のカオス的遍歴を用いたバンディット問題の解決ならびに光の量子干渉を用いた協調的意思決定の概要を紹介する.
本稿では,超スマート社会に資する次世代半導体光ナノデバイスの1つである「高精細かつウェアラブルなディスプレイ」を実現すべく,筆者らが培ってきた赤色希土類元素であるEuを添加したGaN(GaN:Eu)を発光層とするナノワイヤ構造の結晶成長技術およびその光学・構造特性について示す.また,ナノワイヤをフレキシブル樹脂であるポリジメチルシロキサンで包埋し,頭出し処理を行うプロセス技術を確立するとともに,GaN:Eu層を発光層に有するサファイア基板上ナノワイヤ発光ダイオードの室温赤色発光を実現したので,これら一連の研究成果を紹介する.
表面弾性波は,電子デバイス産業で重要な位置を占めつつ,最近ではさまざまな領域で基礎研究への応用も進んでいる.これまでの研究では,主に単一周波数の正弦波型の表面弾性波が使われてきたが,生成手法を工夫すると多様な形状の表面弾性波を発生させることが可能である.こうした表面弾性波の利用は,これまで表面弾性波で行われてきた研究の幅をさらに広げる可能性を秘めている.本稿ではその一例として,我々が最近報告した表面弾性波の単一パルス生成技術に焦点を当て,その生成原理の理解から,具体的な単一パルス生成に至るまでの技術を解説する.