低炭素社会実現に向けて,太陽光発電,燃料電池・水素エネルギーなど,今後,普及が期待されている次世代エネルギー技術を取り上げ,普及への課題,国(経済産業省)による技術開発への取り組みの状況や普及のための支援施策について述べる.
これからのエネルギーとして,自然エネルギーの利用が期待される.太陽エネルギーを中心に,風力や海洋,地熱エネルギー,バイオマスエネルギーそして排熱利用について,自然エネルギーの考え方の基本のうえに,それぞれの現状について概説する.
中国とインドの人口の爆発と経済の急成長に対する有望な解決策に,砂漠地帯などのサンベルトにおける太陽熱発電とその電力を高圧直流送電(High Voltage Direct Current : HVDC)によって搬送するシステムと,石炭と太陽エネルギーとを用いて新CTL(Coal to Liquid)燃料を生産するシステムとがある.これらの両システムにより,アジア太平洋地域のエネルギー安全保障と持続可能型な経済圏を創製することを目指したDESERTEC-Asia構想が提案されている.その中心技術となる太陽熱発電は,蓄熱によって24時間ベースロードを担うことができる.APS(アジア太平洋サンベルト開発)プロジェクトでは,中国楡〔ゆ〕林〔りん〕,モンゴル,オーストラリアのサンベルト太陽エネルギー開発について,2050年ごろまでの中間シナリオを提案している.
マイクロマシン技術(MEMS)で製作されるデバイスの中で,エネルギー変換にかかわるものはPower MEMSと呼ばれる.MITで研究が行われた500円玉大のガスタービンに端を発し,持ち運び可能な高付加価値の超小型電源を目指したさまざまな研究が行われた.ごく最近,Power MEMS分野の中で,環境に存在する希薄エネルギーから微小電力を取り出し,有効活用するエナジー・ハーベスティング(Energy Harvesting)に注目が集まっている.本稿では,環境に存在する機械的振動から電力を取り出す,マイクロ環境振動発電について,東京大学のMEMSエレクトレット発電器を含めながら,その現状と展望について概観する.
150°C 以下の低温度の排熱は多量に存在するが,技術的,経済的な観点から捨てられているのが現状である.本論文では,低温度領域の熱エネルギーの回収を目的に排熱から直接電気エネルギーに変換できる熱電変換材料および熱電変換モジュールの特性について報告する.さらに,ビスマス -テルル系の熱電変換モジュールとそれを使った熱電発電システムの開発についても言及し,熱電発電システムの適用を紹介する.
環境に優しく,安全性に優れた人類の恒久的エネルギー源として高い潜在ポテンシャルを有する核融合について概説する.核融合エネルギー源はその魅力にもかかわらず長期的で大規模な研究開発を必要とする.7カ国の国際協力で建設が開始された国際核融合実験炉ITERはエネルギー実用化に向かっての着実で確かなステップの始まりである.ここでは核融合エネルギーの特徴とこれまでの進展を踏まえ,実験炉段階に入った核融合研究開発の現状と今後のシナリオ,その応用,また21世紀の地球環境・エネルギー問題への寄与について解説する.
低炭素社会実現に向けてモビリティ(輸送・移動手段)の電動化が促進されつつある.モビリティのエネルギーのあり方,考え方について整理したうえで,次世代電動車両としてEV,PHV,FCHVを取り上げおのおのの特徴を整理し,われわれが考えるこれら次世代車の位置づけとすみ分けを明らかにする.一方で世の中が情報技術を活用したスマート社会へと移行しつつあり,この一つの具体例であるスマートグリッドを解説するとともに,スマートグリッドと次世代電動車両の関係について考察した.
環境エネルギー技術への注目度の高まりとともに水の電気分解や燃料電池反応といった固液界面反応を基礎から理解しようとする機運が盛り上がっている.この反応は電極触媒機能や溶媒効果抜きでは語れない複雑なものであり,その理解には電気・触媒化学から表面科学にわたる総合的知識が必要となる.最近,そのミクロな様子が第一原理分子動力学シミュレーションにより明らかにされようとしている.それが燃料電池の材料設計や次世代電池の新動作原理の提案などにつながるものと期待される.
バイオディーゼル燃料は再生可能燃料として,また温室効果気体排出削減対策技術の一つとして注目されている.本小論では,超音波作用を利用した効率的なバイオディーゼル燃料の製造法について述べる.バイオディーゼル燃料は,植物油とアルコール,特にメタノールのエステル交換反応により得ることができる.この反応の化学的基礎と液体に超音波を照射した際に起きる超音波作用を概観したうえで,実証製造装置によりわれわれが超音波作用を利用して高効率にバイオディーゼル燃料を製造している内容について紹介する.
微細加工や薄膜堆〔たい〕積〔せき〕に用いられるプラズマプロセスの進歩が半導体デバイスの微細化・高集積化を促進してきたといっても過言ではない.しかし,ナノ領域に突入した半導体デバイスでは,プラズマから照射される電荷や紫外線などによる半導体表面での欠陥生成はデバイス特性を大幅に劣化させる.また,薄膜堆積ではプリカーサ分子のプラズマ中での解離が激しいために堆積される膜の構造を精度よく制御することが難しく,さらにプラズマによる欠陥生成が膜成長を阻害するため,基板温度を400°C 以上に高くして成膜を促進する必要がある.そのため,今後重要となる超微細トランジスタやフレキシブル有機材料基板への膜堆積が難しいなど,多くの課題を抱えている.そこで,プリカーサの解離および表面での欠陥生成を極限まで抑制したうえで,運動エネルギーをもった中性粒子ビームによる表面活性化反応を利用することで低温にもかかわらず良質な薄膜を膜質制御して堆積できる技術がブレークスルーとなる.本稿では中性粒子ビーム励起堆積技術による超低誘電率SiOCH膜形成技術について紹介する.
半導体工学で何の疑問もなく使われているホールですが,「古典的な電子の海」における「電子の抜け穴」とする単純なモデルでは,ホールの本質を理解することはできません.この基礎講座では,バンドモデルに基づいて「k空間における量子状態としてのホール」を考え,電界・磁界の下でのホールの運動という視点に立ってホールの性質を解説します.