溶液塗布で作る安価なペロブスカイト半導体を使う太陽電池の効率は結晶シリコンの最高効率とほぼ同じレベルとなり,ラボで作る単セルは26%に近づき,集積モジュールの効率も20%以上に届いている.実用化に向けた耐久性確保の技術開発が進むとともに,さらなる高効率化をねらう2接合タンデムセルの製作も活発化している.一方で,学術面においてはイオン結晶としての鉛ハライドペロブスカイトの稀有(けう)な現象を見いだす基礎研究が化学と物理の両分野で進展した.イオン拡散に起因する光物性の変化が詳細に調べられ,これを抑制する方法や結晶界面の欠陥を低減するドーピング材料が多く見いだされている.これによって光電変換特性の開回路電圧はShockley-Queisser限界に近づきつつあり,GaAs半導体の特性を模倣する可能性も見えてきている.本稿ではイオン結晶の構造と欠陥寛容性という特徴がもたらすペロブスカイト半導体の基本物性を解説する.光電変換において,溶液晶析法で作る多結晶薄膜の質を高めることによって,この半導体の薄膜から高い電圧特性を取り出すための材料開発を紹介する.特にIoT用電源としても屋内照明の低光量下で高電圧を維持できる素子を提供できる可能性を示し,ペロブスカイト光電変換の技術が低炭素社会に貢献する将来性を述べる.
有機・無機ハイブリッドペロブスカイト系材料は,その優れた光電変換特性から,太陽電池やその周辺の半導体研究分野で,近年非常に注目を集めている.この材料では,名称が示すように,単一の物質が有機物と無機物の性質を併せもつ.最近筆者らは,この特徴を物質設計に生かし,キラリティを自在に制御できる半導体や強磁性体の開発に成功してきた.具体的には,重元素や磁性元素を含む層状無機骨格に,キラル有機分子カチオンを挿入するアプローチを行っている.面白いことに,開発された系では,有機分子カチオンと無機層が単純に共存するのではなく,有機部分に導入した空間反転対称性の破れが,無機層にも影響を及ぼしていることがわかってきた.本稿では,この性質により実現された電子物性の例を示し,光電変換特性にとどまらない有機・無機ハイブリッドペロブスカイト系材料の潜在的な魅力を紹介する.
太陽光発電や蓄電,風力発電,電動車など,低炭素社会を支えるさまざまな技術において,電圧や周波数を変換するためのパワーデバイスが活躍している.炭化ケイ素(SiC)単結晶は,高い絶縁破壊強度などの優れた材料特性を有しており,SiCを材料としたパワーデバイスは特に高電圧用途で高い省エネ性能を発揮する.SiCパワーデバイスはさまざまな応用用途で実用化が始まっているが,さらなる適用・普及拡大に向けて,SiCウェーハの品質改善や低コスト化,大口径化が望まれている.本稿では,SiCパワーデバイスの大容量化や適用拡大に向けたSiC結晶成長に関する研究を紹介する.
結晶の原子間隔レベルまで物質を薄くすると,その層数に応じて電子構造は離散的に変化し,特異な物性が現れる.このとき結晶の対称性も積層構造により変化し,数原子層の物質ではバルクや単層では発現しない豊富な物性や機能が発現しうる.数原子層WTe2はそのような物質の1つであり,積層に伴って生じる空間反転対称性の破れやベリー曲率に由来する興味深い強誘電性と非線形輸送特性を示すことが知られている.本研究では顕微レーザー角度分解光電子分光を用いて,剝離法によって得られた2‐5層WTe2フレーク試料のバンド構造を直接観測した.その結果,2層と3層の間で絶縁体‐半金属転移が生じること,さらに積層に伴う結晶構造非対称性の振動により,偶数層数のみ価電子帯が30~70meVの大きなスピン分裂を示すことを見いだした.本研究は,原子層の積層によってバンド構造やスピン軌道相互作用による有効磁場などを制御できることを示している.
摩擦帯電型エネルギーハーベスタは人体の動作などの低周波の運動から発電することが可能であり,自己給電型ウェアラブルデバイスの電源として期待されている.ウェアラブルデバイスにおいては人体の動的な3次元表面に追従する必要があり,高い伸縮性が要求される.本研究では,カーボンナノチューブ薄膜電極を用いることにより,高出力(8W/m2)かつ高伸縮性(35%)をもつシート状の摩擦帯電型エネルギーハーベスタを実現している.誘電体層表面にフッ素プラズマ処理を施すことにより高出力を得た.作製したハーベスタの特徴を生かし,自己発電型信号送信デバイスやLEDを埋め込んだ手袋を実証する.さらに,微小な電力を蓄積して機能デバイスの駆動に有効な電力を実現するための高効率な間欠動作回路の提案と実証も行う.本研究はウェアラブルデバイスの課題である電源の問題に解決の糸口を与えると期待される.
再生可能エネルギー(以下,再エネ)の導入拡大や半導体デバイス・蓄電池性能の進歩を背景として,再エネと蓄電池を組み合わせた直流給配電システムが,経済的(省エネ・高効率化)かつ環境指向の次世代電力供給システムとして注目されています.また近年,地球温暖化が及ぼす自然災害による停電対策として,直流技術を活用した電力レジリエンス強化への期待が高まっています.本稿では,最近の直流技術動向ならびに直流給配電システムの実用化に向けた実証システムの構成・導入機器(直流遮断器/DC-DCコンバータなど)および実証試験の1例を紹介します.