酸化物人工格子に代表される原子・分子層スケールでの結晶成長制御は,誘電性や磁気特性を人工的に設計・構築することを可能にする.本稿では,これまでに培われた酸化物のエピタキシー技術を酸化亜鉛(ZnO)に適用した例を紹介する.ワイドギャップ半導体であるZnOは,光学・電気・磁気的特性において多彩な魅力ある性質を有し,さらに表面ナノ構造およびへテロ量子構造を形成することで,新機能の発現が期待できる.ここでは,ZnOの極性・非極性成長と表面形態(ナノ構造)の相関性,ヘテロ界面での成長モードと量子井戸構造の構築,およびスピントロニクスを目指したCo添加に伴う磁気特性制御について紹介する.
Indium -Tin -Oxide (ITO)の代替材料として期待されている,AlもしくはGa添加ZnO (AZOもしくはGZO)などのZnO系透明導電膜に関する研究開発の現状と将来展望を述べる.基本的特性の詳細および成膜技術の進展を解説する.特に,液晶ディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ用透明電極においての本格的な採用に対する問題点とその解決法,および残された課題を述べる.直流マグネトロンスパッタリング法で作製するZnO系透明導電膜における抵抗率分布の改善および低抵抗率化が,可能な新規な高速成膜技術を紹介する.
半導体結晶内に発生するひずみはデバイスの特性不良,劣化を引き起こす原因として,その除去,回避に関心が向けられてきたが,最近ではひずみを積極的に利用して高速動作素子を作製しようとする動きも出てきた.このひずみを制御するには,精密なひずみ計測技術を確立することが求められている.本稿では,ひずみ解析の手法の一つとして,局所評価が可能な顕微ラマン散乱分光法を取り上げ,測定原理・測定手法・検出精度について解説する.また,グローバルなひずみに加えて,デバイス構造に付随する局所的なひずみの評価にラマン散乱分光法を適用した例を紹介し,将来のラマン評価技術の展開について述べる.
固体の性質は数nmまで小さくしてもバルクとそれほど違わないが,1nm台に入ると様相は大きく変わる.構成原子1個の増減で安定な構造と物性が一変してしまうような,著しいサイズないし形状効果が現れる.最近,実用性の高いII-VI族半導体化合物の一つであるCdSeについて,原子数nまで正確にそろえた1nm台の(CdSe)13,(CdSe)33,(CdSe)34,を溶液法で作製できることがわかった.この分子的な1nm台ナノ粒子の実験結果を紹介しつつ,ナノ構造体として最も特徴的な性質と応用の可能性について展望する.
酸化物半導体ZnOは,直接遷移半導体で室温でのバンドギャップエネルギーが3.3eV,励起子結合エネルギーが60meVと他の半導体に比べ著しく大きいところから発光素子材料としてのポテンシャルを秘めている.さらに,資源,環境問題へのリスクも小さいことが予想され,最近新しい発光材料として非常に注目されている.特に,ナノ構造を導入できれば,励起子効果が増強され,これまでにない高効率な固体光源への展開が期待できる.従来,PLD(pulse laser deposition)法を中心にZnO系薄膜成長の検討が行われてきている.しかし,その混晶のバンドギャップ・エンジニアリングに十分成功していない,デバイス・クオリティのZnO薄膜が得られていない,p型伝導性制御が困難などの大きな課題を抱えていた.われわれは,ラジカルを利用するリモートプラズマ励起有機金属気相堆積(RPE -MOCVD)法を用いることで初めてこれらの問題を解決できる見通しを得つつある.最近,ZnO系ヘテロ接合を実現し,可視域全域でのエレクトロルミネッセンス発光に成功した.新しい酸化物半導体ナノフォトニクスへの新展開が期待される.
チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)は古くから知られ数多く研究されてきた材料であるが,最近新たに電子をドープした電気伝導性のSrTiO3 が室温で青色に発光することを見いだした.発光特性の温度変化から,伝導電子と自己束縛励起子準位の関与した発光機構を提案する.また,微細加工技術を使って局所還元領域を作製し,発光領域を制御できる例も併せて紹介する.このSrTiO3 での新しい特性は「酸化物エレクトロニクス」の可能性を大きく広げるものと期待している.
強相関4d電子系層状ペロブスカイト型ルテニウム酸化物Ca2RuO4 において,「共鳴X線散乱干渉法」という新しい実験手法を用いることで,電子軌道の強秩序状態を初めて観測することに成功した.共鳴X線散乱干渉法によるモット絶縁体Ca2RuO4 の強的軌道秩序の観測の実例を通して,軌道秩序と物性の関係について説明する.
光応答性高分子材料の一つとして,アゾベンゼン高分子が多くの研究者の関心を集めている.アゾベンゼンは,光励起によって分子の構造を変える(光異性化)特性を備えた有機化合物である.可逆的な光異性化の素過程は分子間の相互作用,あるいは,外場による摂動を通じて時空間的に発展し,多様な光誘起現象につながってゆく.現象の化学的な応用はもとより,物理的,中でも光機能に注目した応用は興味深い.本稿では,直線偏光照射による複屈折の発現,楕円偏光照射による光誘起キラリティの発現,あるいは,光誘起物質移動による表面微細構造の形成などを中心に種々の光学応用が期待されている最近の研究結果について紹介する.