筆者らは,球面上を伝搬(でんぱん)する表面波は自然に細い平行ビームを形成して多重周回する場合があることを見いだし,これを利用した高感度なセンサを考案した.このセンサは平面基板上の表面波センサより感度が高く,その結果,感応膜を薄くでき,応答速度も向上した.水素ガスに対しては,あらゆる種類のセンサ中,最も広い検出濃度範囲をもつ.半導体製造などで必要な微量水分計としても,初めての小型・高速・高感度センサとして実用化が期待され,多種類のガスに対応する携帯型ガスクロマトグラフへの応用技術開発も進んでいる.
角度は,1周360°回転すると元の位置に戻る閉じた系であるという性質がある.この性質を用いると,高精度な角度校正装置がなくとも自ら角度誤差を校正できる自己校正方法を考え出すことができる.本稿では,この性質を用いたロータリエンコーダの高精度化について紹介する.
2003年にTbMnO3において磁場による電気分極の90°回転が発見されてから,磁気秩序を伴う強誘電体がマルチフェロイクスというキーワードの下で集中的に研究された.その結果,サイクロイドと呼ばれるらせん磁気秩序が電気分極を誘起すること,磁場によるサイクロイドのスピンフロップ転移が電気分極の磁場誘起回転として観測されることが明らかになった.また,磁気秩序が強誘電性と強磁性の2つを同時に誘起するマルチフェロイクスでは,ドメイン壁の構造を制御することで磁場誘起電気分極反転現象や電場誘起磁化反転現象が実現可能である.
半導体BaSi2は禁制帯幅が約1.3eVの半導体である.間接遷移型半導体であるが光吸収係数が大きく,また,多結晶膜であるが,結晶粒サイズよりも格段に大きな少数キャリヤ拡散長をもつなど,光キャリヤの生成と収集に特に有利な特徴をもつ.これは,結晶粒界が正に帯電し,少数キャリヤを結晶粒界から排斥する作用によると考えられる.本稿では,BaSi2の少数キャリヤ特性を中心に,この材料の魅力と将来展望を述べる.
光格子時計は秒の再定義を実現する光周波数標準の方式としてだけでなく,重力ポテンシャル差を直接かつリアルタイムに検出するプローブとしても注目されており,そのためには空間的に離れた光格子時計間の周波数を高精度に比較することが必要である.これらの応用を見据え,ともにストロンチウム光格子時計をもつ情報通信研究機構(NICT),東京大学,ドイツ物理工学研究所(PTB)を光ファイバや通信衛星により結んで,光格子時計の生成周波数の比較を行った結果を紹介する.とりわけNICT-東京大学間のファイバリンクでは標高差56mに基づく一般相対論的重力シフトをごく短時間の測定で明瞭に観測し,将来の光格子時計の測地学への応用の可能性を示唆している.
有機半導体のLUMO準位(空準位,電子親和力)のエネルギーについての情報は,電子伝導に関わることから有機エレクトロニクスにとって重要である.それにもかかわらず,これまで適当な実験手法がなく,測定が困難であった.我々は,低エネルギー逆光電子分光法という新しい測定法を開発し,有機デバイスと同じく薄膜試料についてのLUMO準位の精密測定が可能になった.本稿では,その原理や特徴について述べる.また,有機発光素子や有機太陽電池などの有機エレクトロニクスへの本手法の応用例についても紹介する.
筆者らは高分子鎖を連結させたブロック共重合体や2種以上の高分子の混合物であるポリマーブレンドから高分子微粒子を作製する簡便な手法(自己組織化析出法)を報告している.本手法を用いて作製した高分子微粒子内部には,相分離に基づくユニークなナノ構造が形成されることを見いだした.また,ナノ構造の制御や微粒子サイズが相分離構造に与える影響,およびナノ構造をもつ高分子微粒子の無機ナノ粒子による機能化についても検討しており,本稿ではその概要について紹介する.
磁気測定のうち,磁束密度の測定に用いるガウスメータ,磁化および磁化率の測定に用いる磁力計,磁気異方性の測定に用いる磁気トルク計について,測定原理のあらましと測定にあたっての注意事項を掲げる.
2011年3月,東日本大震災によって開催中止となった第58回応用物理学関係連合講演会.計画停電や原子力発電所事故の状況が刻々と変化する中で,厳しい判断を迫られることになった背景には何があったのか.当時,講演会企画運営委員長を務めた堀勝氏と前事務局長の芳野久士氏の資料を基に,いかにして講演会が開催中止に至ったか,その経緯を紹介すると同時に,震災時の講演会運営の資料としてここに記しておきたい.