低次元ナノ構造の電気伝導を,多探針走査型トンネル顕微鏡および関連法を用いて研究したいくつかの例を示す.すなわち,一次元のカーボンナノチューブ,金属ナノワイヤ,π共役系高分子鎖,二次元のP共役系高分子薄膜,フラーレン(C60)重合膜,0次元のポイントコンタクトの電気伝導について議論する.カーボンナノチューブと金属ナノワイヤに関しては,拡散伝導からバリスティック伝導への移り変わり,π共役系高分子鎖に関しては,電荷注入によるポーラロンの形成と金属状態への転移,π共役系高分子薄膜に関しては,異方的伝導と等方的伝導,ポイントコンタクトに関しては,有機薄膜を通しての金属と金属のポイントコンタクトの形成,などを議論する.
近年,ナノエレクトロニクス・ナノフォトニクスの基本構成要素として,ナノメートル程度の断面寸法を有する半導体ナノワイヤが注目を集めている.代表的な半導体ナノワイヤの形成法である気相-液相-固相成長機構を用いた方法と,筆者らが試みている有機金属気相選択成長を用いた方法,およびナノワイヤのナノデバイス応用についての最近の動向について紹介する.
遷移金属酸化物は,主にその誘電特性,強誘電性,そして磁気特性のために,さまざまな分野においてマイクロエレクトロニクスへの応用が始まりつつある.現在のアプリケーションでは,アモルファスや多結晶酸化物薄膜が主流である.ここでは,新奇かつ有用な電子物性を有する材料・デバイス開発に新しい道を開くナノ構造ヘテロエピタキシャル酸化物の成長と構造,そして物性の探索について解説する.
透過電子顕微鏡(TEM)法は,ナノ構造観察とその物性の同時計測が可能である.最近,電極間に金や白金単層ナノチューブを形成し,カーボンナノチューブ同様に,らせん構造をもつことを見いだした.走査型トンネル顕微鏡を組み込んだTEM法を用いることで,このような原子サイズの金属ナノワイヤの量子化コンダクタンスについて新たな知見を得た.今後の展開として,生体物質などに含まれる水素,リチウム,炭素,酸素,硫黄などの軽元素の識別法として,色・球面収差が補正された顕微鏡法が有効な手段であることについて述べる.
TTF -TCNQ電荷移動錯体は,一次元有機金属の典型物質として知られている.この有機導体を電界印加共蒸着法によって配向成長させると,有機導体による細線(有機導体ワイヤ)が得られる.有機導体ワイヤは印加する電界によって成長方向の制御が可能で,独立に成長する2本の有機導体ワイヤを接続することもできる.有機導体ワイヤの成長機構に関する最近の研究結果に基づいて,2本の有機導体ワイヤの接合点に微小な有機半導体デバイスを作り込み,FET動作を実証した.これまで有機半導体デバイスは高抵抗・低移動度のため実用化には困難が伴うとされてきたが,作製された有機ナノデバイスはその弱点を克服し,“やわらかい電子デバイス”実現に一歩近づいたといえる.
生命体は柔軟で,湿った環境で効率よく機能している.生命体を模倣した材料やデバイスは,省エネや環境保全の面から未来技術として注目されている.導電性高分子は,電気化学的な酸化還元により筋肉のように伸縮し,伸縮率は26%,収縮力は22MPa,伸縮速度は10%/sに達する.応答速度や寿命にまだ問題が残っているが,小型ポンプ,人工筋肉などへの応用が可能になってきた.導電性高分子によるソフトアクチュエーターの開発状況について紹介する.
カーボンナノチューブを目的の位置にパターニングする試みとして,アモルファスカーボンピラーを原型に,触媒を使った固相反応でグラファイトチューブ化する技術と,高精度の位置制御性をもつ新しい微粒子合成法を使ってパターニングした金属微粒子触媒から,単層カーボンナノチューブを選択的に成長する技術を紹介する.
近年,ナノテクノロジーの進展に伴い,超薄膜などの従来の二次元性の物性に加え,さらに次元を落とした,一次元性(ワイヤ),0次元性(ドット)などの,低次元材料の物性とそのデバイスへの応用が盛んに研究されている.中には,超微細加工による従来の無機半導体材料ではなく,分子,特に単一の有機分子の材料物性に基づいた,新規な低次元性材料やデバイス応用を目指した研究も盛んになっている.本稿では,そのような研究の一部を担う,有機分子を低次元性材料として用いた,単一分子による0次元(ナノドット)デバイスの作製と応用,および分子集合による一次元(ナノワイヤ)構造の作製とその評価を紹介する.
2nm以下のギャップを有する電極対を制御性よく作製する方法を確立した.この方法では,シリコン基板をくりぬいた台座構造に対して,集束イオンビームを用いて,1nmの精度で非晶質タングステン電極を作製する.この電極対で,Gd原子内包フラーレンダイマーあるいはクラスターの電気伝導を計測した.この方法で作製した非晶質タングステン電極は,低温で超伝導になる.電極間に挟まれたフラーレンダイマーを介した,超伝導近接効果を観測した.超伝導近接効果の温度変化および磁場効果を調べることによって,Gd原子内包フラーレンのスピンに起因する特性を得た.これらのナノギャップ電極の作製方法と実験に関して解説する.
高分子溶液に貧溶媒を加えた後,良溶媒を徐々に蒸発させることにより,粒径のそろったナノ微粒子が自己組織化的に形成されることを見いだした.この手法は,適切な溶媒の組み合わせを選択することで,高分子に限らず,多様な物質に適用できる汎用的手法になりうる.セグメント比率がほぼ等しいスチレン-イソプレンブロック共重合体から形成されたナノ微粒子の電子顕微鏡観察から,スチレン部位とイソプレン部位が周期的なラメラ構造を形成することが明らかになった.ラメラ構造は平行に積層したものであることから,微粒子形成過程は対称的ではないことが示唆される.
スピンホール効果とは,電場を試料にかけると,それに垂直方向にスピン流が誘起される効果である.この効果が不純物散乱によって起こりうることは,30年以上前に提唱されている.最近,これが半導体において,不純物散乱によらず,固体のバンドの効果によって起こることが理論的に提案され,実験的に観測されるなど,盛んに研究されている.この効果は,非磁性の半導体であっても,また外部磁場がゼロでも起こるため,この効果を利用して半導体中にスピン流を効率的に注入し,半導体スピントロニクスデバイスに利用できる可能性を秘めている.
経済現象の詳細なデータを解析すると,物質の相転移現象で普遍的に観測される臨界揺らぎと同じような,フラクタル性を有する揺らぎを,さまざまなところで見いだすことができる.なぜ経済現象が臨界状態になりやすいのかを物理学の視点から議論し,その変動を特徴づける数理的な解析方法を紹介する.