大規模集積回路(LSI)はトランジスタを微細化することにより著しい発展を遂げてきたが,近年ミクロな擾(じょう)乱(らん)による特性ばらつきである「ランダムばらつき」が増大して微細化が困難になりつつある.本稿では,LSI における種々のばらつきについて概観した後,現在特に問題となっているランダムばらつきについて最近得られた知見を紹介する.また,ばらつきを減らして微細化を継続するための技術課題について解説する.
シリコン酸化膜の絶縁破壊は,局所的現象であり,高電界ストレス印加下で進行する劣化も,二次元分布を有している.劣化は膜中の電荷捕獲と密接な関係にあるが,その分布は,希フッ酸エッチングにより現出させることができる.二次元分布の起源として,シリコン酸化膜の表面・界面のラフネス,あるいは膜厚の均一性が大きく関与している.
光の位相情報を活用するコヒーレント光通信の研究は,約20年の中断を経て,近年再び活発化している.新世代のコヒーレント光通信は,従来の光技術と高速デジタル信号処理の融合を特徴としており,デジタル・コヒーレント光通信と呼ばれる.本稿では,コヒーレント光通信の歴史を概観した後,デジタル技術との融合がもたらす新たな可能性について解説する.
電子エネルギーバンドの分散についての研究は多いが,バンドの性質(バンドを構成している原子軌道,結合状態,軌道角運動量など)についての実験的研究は難しく,ほとんど研究されてきていない.われわれは,偏光放射光と二次元光電子分光を組み合わせて,三次元的なバンド分散のみならず,バンドの性質を解析する研究を進めてきた.直線偏光で励起した光電子の放出角度分布から,バンドを構成する原子軌道が特定できる.ブリュアンゾーンごとの強度の変化から,結合軌道か反結合軌道かが判別できる.円偏光で励起した価電子光電子の放出角度分布における円二色性から,バンドを構成する原子軌道の軌道角運動量が特定できる.
MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistors)における Random Telegraph Signal と 1/f 雑音およびチャージポンピング(CP)特性の物理的背景について概説し,ナノスケール MOSFET における界面物性揺らぎに関する著者らの最近の研究を紹介する.デバイス特性への界面物性揺らぎの影響を把握するためには,バンドギャップ内に存在する全トラップの電気的振る舞いを知る必要がある.本稿では,CP 特性に個々のデバイス固有の反転(蓄積)電圧印加時間依存性が現れることを示し,バンドギャップ内に存在する界面トラップの数とキャリア捕獲率の揺らぎを検出し評価できることを述べる.
微細化に伴って問題が深刻化する Cu/Low-k 多層配線の信頼性に関し,代表的な故障モードであるエレクトロマイグレーション(EM),ストレスマイグレーション(SM),経時絶縁破壊(TDDB)のメカニズムと対策プロセスの現状を概括する.原子移動を引き起こす駆動力は,電子風力,応力,電界と故障モードごとに異なるが,その本質的な要因は,Cu 配線を覆う界面やバリア絶縁膜/Low-k 膜界面での原子の動きやすさにある.
日本半導体産業の凋(ちょう)落(らく)が叫ばれて久しい.研究開発は盛んだが,企業の業績に結びつかない.研究レベルが低いのではなく,内容が産業の状況とかみ合っていないことが原因だ.微細化の目的が性能向上よりも低コスト化に移行しているのに対し,新技術はコストを押し上げる.だから,せっかく研究開発して新技術を生み出しても,容易に採用できない.研究開発を短期的な産業界の競争力向上に結びつけたいのであれば,半導体をけた違いに安く作る方法など実状に即した方向に変える必要がある.また,微細化限界以降の新しい価値の創造を目指すのであれば,短期的な実用化にこだわらない長期的な視点が必要だ.いずれにしても研究には,何のために半導体を作るのかというビジョンを問い直す必要がある.
ビーカーに浸すだけでナノスケールの構造を精密に制御し,単電子デバイスや分子デバイスを構築するボトムアップエレクトロニクスが注目されている.単電子・分子デバイスをボトムアップ手法で構築すると,トンネル過程を分子構造で制御することができる.われわれは,これまでに分子分解能走査型トンネル顕微鏡の超高真空中でのトンネル過程を利用して,一つのナノ粒子あるいは分子を直接観察して,それらの電子機能を明らかにしてきた.本稿では,溶液系におけるボトムアップ手法と超高真空における走査型トンネル顕微鏡というまったく異なる素子構造における研究がトンネル過程によりつながり,ボトムアップエレクトロニクスへと展開することを紹介する.
細胞表層に存在する糖鎖は生体のシグナルとして働き,さまざまな生命現象に関与している.近年は多くの疾病に関与していることから注目されている.糖鎖を病原体やたんぱく質を認識する分子素子として扱い,薄膜やナノ材料と組み合わせることで,新しい生体機能材料を開発することができる.
本稿では,High-k(高誘電率)ゲート絶縁膜の信頼性の項目(しきい値変動,絶縁破壊,ノイズ特性)に関して,High-k と SiO2 との信頼性劣化メカニズムとの違いを中心に報告する.NBTI では SiO2と同様の界面準位の劣化以外のHigh-k バルク正孔トラップ,PBTI ではバルク電子トラップの振る舞いの理解が必要である.TDDB では従来正孔が破壊を支配していると考えられてきた SiO2と異なり,電子が破壊を律速する過程が存在する.また1/fノイズ特性も界面トラップのみでなく,絶縁膜のダメージ/トラップを考慮しなければならない.
今日量産されている大容量メモリーの信頼性評価を行うことは,時に大海から砂粒を探すがごとき困難な作業となる.われわれは,大容量のフラッシュメモリーの信頼性評価を精密かつ短時間に行うことができる大規模アレイテスト回路を開発した.このテスト回路は,フラッシュメモリーの微細なセルに相当する素子を1ショット当たり8万個以上,ウェハー当たり500万個以上配備したもので,ゲート絶縁膜に電界ストレスを印加した際の,10-16 Aオーダーの局所的ストレス誘起ゲートリーク電流やランダム・テレグラフ・シグナルによる1 mVオーダーのしきい値電圧の変動を,数十秒から数百秒の短時間で測定可能としている.本稿では,この大規模アレイテスト回路技術と測定結果例を紹介する.
真空は,最先端の科学研究・技術開発から,われわれの身近なところまで,さまざまな分野で利用されている.真空を特徴づける圧力,真空を理解するうえで欠かせない分子の平均自由行程や入射頻度,さらに真空を作るために必要となる気体の流量,コンダクタンス,排気速度などの概念について解説する.