波長200nm以下の遠紫外域では,物質内あるいは物質間の電子励起や電子移動に伴う強い吸収が検出される.近年,減衰全反射法(ATR)を採用した新しい分光装置の開発により,液体や固体の簡便かつ系統的な遠紫外分光研究が可能となった.本稿ではその中でも,酸化チタンやイオン液体といった機能性材料研究に焦点を当てた.独自の装置改造を施すことで,光照射下や電圧印加下におけるスペクトル測定が可能となり,光触媒活性などの材料物性との関係を議論することができる.高い汎用性と,目的に合わせた測定機構を比較的容易に導入することができる柔軟性が本系の大きな長所であり,今後のさらなる発展が期待される.
育成環境が予期せぬ摂動により非定常状態になっても成長結晶に組成変動が起きない真のコングルエント組成を,第3成分としてMgを加えたニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムを対象にして開発した.コングルエントに新しい化学量論構造を組み合わせることによりイオン種を含むあらゆる化学種の平衡分配係数k0†1は1となり,界面が非平衡に移動しても全ての化学種は偏析することなく結晶に分配するので,融液組成と同じ組成の結晶が成長する.
近年,周囲の電子と比較して高いエネルギーをもつ“ホットエレクトロン”が注目されている.計測においては好まれないホットエレクトロンだが,新奇な光化学反応や光電子変換の高効率化に向けた研究が行われている.光で電子を高いエネルギー状態に励起するためには,バンドギャップを超える十分に短波長の光を注入する必要があるが,局在表面プラズモン共鳴を用いると,ホットエレクトロンを発生させることができる.ここでは,エネルギー生成への応用に関して,ホットエレクトロンの生成方法から,金属で生成したホットエレクトロンが界面を介して半導体や吸着分子へ移動するプロセス,および誘起される化学反応について概説する.
波長が280nmよりも短いUVC光を発する深紫外LEDは,殺菌から医療,光加工,ICT応用に至るまで,幅広い分野においてその重要性が増しており,本格的な社会普及への期待がますます高まっている.近年,AlGaN系深紫外LEDデバイスの結晶品質や内部量子効率は大幅に向上してきている.しかしながら,その光出力については,青色LEDや従来深紫外光源である水銀ランプと比較すると,いまだ低い値にとどまっている.我々は,内部光吸収や光出力飽和現象(効率ドループ)の抑制を可能とするナノ光構造技術を基盤とした深紫外LEDの研究を行ってきた.本稿では,単チップにおいて光出力500mWを超える,水銀ランプに匹敵する極めて高出力な265nm帯深紫外LEDを実証した取り組みなどについて紹介する.
我々のグループでは最近,ゼオライトの一種であるアルミネートソーダライト型化合物において「間接型強誘電性」と呼ばれる風変わりな強誘電性を示す物質群を見いだした.アルミネートソーダライト型化合物は地球上に豊富に存在し,また主として環境親和性の高い元素によって構成されている.これまでの強誘電体材料開発はペロブスカイト型化合物を中心として進められており,キャパシタや周波数フィルタなど多くのデバイス素子として実用化に至っている.それに対して強誘電性アルミネートソーダライト型化合物は,焦電発電素子材料として鉛系ペロブスカイト型化合物も上回る特性を有し,非ペロブスカイト型強誘電体開発の新しい可能性を示している.本稿では,誘電特性や分極特性に着目しつつアルミネートソーダライト型化合物の間接型強誘電性を概説し,間接型強誘電性との関連から焦電発電素子材料としての性能を議論する.
金沢大学の有機系太陽電池を研究するグループは,電極材料を工夫することによって,大気中で塗って作製できる高耐久の逆型有機薄膜太陽電池(逆型OPV)の開発に世界に先駆けて成功した.ここでは,その先駆けとなった化学浴析出法により作製したアモルファス酸化チタン(CBD-TiOx)薄膜を電子捕集層とした逆型OPVについて概説し,現在世界のさまざまな企業から発売され始めたOPVモジュールの基礎となる技術を紹介する.また,さらなる高耐久性や高性能化を導き出す可能性のある金沢大学でのOPV分析技術と分子レベルからの高性能化技術を紹介し,OPVの将来像について議論を行う.
本稿では,マテリアルズインフォマティクスに関わる取り組みのうち,材料のデータを蓄積する取り組みと材料の効果的記述法について解説します.また,本分野のこれまでの事例を紹介するとともに,今後の発展のために期待される技術について述べます.