分子ナノテクノロジーの発展には化学者の寄与が必須になると考えられる.ここでは,有機分子を用いる分子ナノワイヤと単分子スピン素子の設計と開発の現状,および比較的単純に考えられている金-チオール結合による電極コンタクトに対する分子論的理解の現状について概説する.
化学,生物分野だけでなくナノスケール・エレクトロニクスの世界でも分子が重要な役割を演じることが期待されている.分子が活躍する ‘舞台’ の一つはナノスケール電極であろう.将来,分子素子がシステム・オン・チップの一端を担うことも視野に入れた電極作製手法が望まれる.Bell研の研究者によって報告された分子単層膜電界効果トランジスタは高性能の分子素子として注目されたが,昨年データねつ造論文の一つとして否定された.しかしながら,いくつかのグループが検討を行い,分子スケール素子の設計指針が明らかになってきた.分子素子開発の経緯と新しく開発された分子スケール電極を用いた分子導電性評価の実験結果について概説する.
導電性高分子(ポリアニリン)と絶縁性の環状分子(シクロデキストリン,CD)またはCDから合成される分子ナノチューブを用いて分子被覆導線を作製し,原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察を行った.分子被覆導線では導電性高分子の外側をCDまたは分子ナノチューブが覆うために分子間相互作用が遮へいされ,高分子一本鎖が単離できる.また,CDおよび分子ナノチューブの内径が狭いために高分子の形態が棒状に制約され,π電子共役構造の欠陥の抑制が期待できる.さらに,この分子被覆導線一本鎖の導電率を測定するために,微細加工を用いて四端子電極基板を作製した.本稿では分子被覆導線の作製とその一本鎖の導電率測定に関する試みについて解説する.
IIB -VIB族ナノクリスタルの半径をエキシトンボーア半径よりも小さくし,粒子表面に適当な表面修飾を施すと,量子閉じ込め効果によって粒径制御による励起波長の最適化や発光効率の増大などが可能となる.本稿では,ZnS : Mn2+およびCdSeを中心としたナノクリスタル蛍光体に関する最新の研究開発動向を紹介する.
量子ホール効果やメゾスコピック系についてはすでに教科書の世界という認識もあるが,これらの中で生じるキャリア相関,さらに相関に基づくコヒーレント状態に着目することにより新しい物性研究がここ数年で急速に進展している.これらの研究はそのほとんどが高品質な半導体構造を用い,極低温で理想的な状態を実現し,その物性を探求する段階にあるが,量子コンピューターにつながる現象や,半導体中でのキャリア超流動など夢のあるものが多い.本稿では,これら半導体量子構造における物性研究の新しい側面を紹介する.
Si(100)表面の非対称ダイマーの局所的な電子状態を利用してLewis酸・塩基反応や環化付加反応を展開し,有機分子/半導体表面ハイブリッド系を構築できる.分子とシリコン原子の化学結合,吸着分子の立体配座(コンフォメーション)について典型例をあげ,解説する.
量子サイズのナノクリスタルシリコン間の多重トンネル伝導による弾道電子放出現象を応用した新規電子源の開発を行っている.まず本電子源の特徴について紹介した後,ナノシリコンの観察結果について報告する.また,フラットパネルディスプレイへの応用を試み,対角2.6インチで,168(RGB)×126画素のプロトタイプフルカラーBSDパネルを試作したので報告する.
ダメージフリー高精度プロセスを目指して,高効率中性粒子ビーム生成装置を開発した.誘導結合プラズマ(ICP)に直流バイアス印加用の平行平板型カーボン電極を組み合わせ,下部カーボン電極にはイオン中性化用のアパーチャーが形成されている.この電極間に電位こう配を与えることで正・負イオンを加速し,アパーチャーを通過させることで中性粒子ビームが生成される.特に負イオンを用いることにより,中性化率100%を実現し,低エネルギー高密度中性粒子ビーム生成に成功した.本装置を用いることで50nm程度のゲート電極加工や原子層レベルの超精密シリコン酸窒化膜の形成が実現できた.
局在プラズモン共鳴はナノメートルサイズの金属微粒子中の電子波が光と相互作用して共鳴する現象である.共鳴条件は金属微粒子表面近傍の状態に敏感であるため,物質の吸着や脱離を高い感度で検出することができる.この性質を利用したバイオセンサーはマイクロメートル,あるいはナノメートルサイズへの微小化が可能であるという特徴がある.われわれは光ファイバー端面に局在プラズモン共鳴を起こす構造を構築して高感度な超小型光ファイバーバイオセンサーの作製を行った.
最初に,現在dc電圧の一次標準(国家標準)として採用されているNb/AlOx/Nb接合を基本素子に用いたジョセフソン電圧標準(用語)について解説した.続いて,世界の主要な標準研究機関において開発が進められているプログラマブル・ジョセフソン電圧標準と呼ばれる新しい電圧標準技術の特長と開発の現状について紹介した.