ディジタル技術が社会に浸透し,多種多様な電子機器が用いられる時代となった.とりわけウェアラブルエレクトロニクスに代表される生体計測用電子デバイスの発展は目覚ましく,高速通信や人工知能(AI)の研究開発と相まって,多くの社会実装が見られる.私のグループでは,機能性有機材料を集積化することで,柔軟性に富み,ゴムのように柔らかく,軽量なフレキシブル・ストレッチャブルエレクトロニクスの研究開発を進めている.この中で,医療機器の認証を取得し,医療機関で活用されるなど,新しいエレクトロニクスの社会展開を進めている.本稿では,フレキシブル・ストレッチャブルエレクトロニクスの研究開発,それを支えるナノサイエンスとテクノロジー,これを活用した生体活動電位の計測システムの研究開発について紹介したい.
ベータ酸化ガリウム(β-Ga2O3)は,約70年にわたる研究開発の歴史をもつ材料でありながら,長い間半導体材料として注目されることはなかった.その状況はこの10年の間に一変し,主に次世代パワーデバイス応用への期待から,世界的に材料,デバイス研究開発が活発化した.特長的な物性の多くは,その4.5eVと非常に大きなバンドギャップに起因する.また,もう1つの重要な点として,融液成長により大型単結晶バルクの育成が可能であることが挙げられる.本稿では,電子デバイス応用に重要となるβ-Ga2O3の物性について紹介したあと,バルク融液成長,薄膜エピタキシャル成長技術の現状について紹介する.そして,最先端のβ-Ga2O3ダイオード,トランジスタ開発について,今後の展望も含めて議論する.
我々の生活になくてはならない電子機器には,制御や通信などのため多くの半導体が使われている.身近なところでは,自動車,スマートフォンなど,半導体が使われる製品は数えれば限りがない.それら電子機器の心臓部である半導体デバイスは,シリコン基板に対して,さまざまな微細加工が行われ,製造されている.半導体デバイス製造には,ナノメートルオーダの加工精度が求められ,薬液・プラズマなどを用いてエッチング・成膜・洗浄などのプロセスが行われる.半導体製造装置では,さまざまな調整パラメータを用いてプラズマプロセスを制御している.新規材料や製造プロセスの探索について,機械学習を用いた回帰アルゴリズムが適用されるようになってきている.
蓄光材料は,光吸収によって長時間発光するため,電源不要の光源として利用されている.既存の蓄光材料は全て無機化合物で構成されているのに対して,我々は有機半導体デバイスを応用した有機蓄光システムを実現した.有機蓄光は可溶性,柔軟性,波長制御の容易性,持続可能性など無機材料とは異なる特色をもち,これまでにない蓄光の用途開発が期待される.本稿では,有機蓄光システムの基本的な構成と発光原理について紹介する.また,発光プロセスの制御因子として高次3重項励起状態の寄与についても説明する.さらに,電荷保持と光刺激発光など有機蓄光システムの応用についても紹介する.
近年,超小型衛星の利活用が急速に増えており,その活躍の場は地球近傍にとどまらず深宇宙へも飛び出し始めている.そこで必要となるのが小型推進系(マイクロスラスタ)である.スペース,重量などの制約が大きい超小型衛星において,必要な速度増分(⊿v)を達成するには電気推進機が重要な役割を果たすと期待されている.本稿では,その中でもイオンを静電的に加速することで推力を得る,イオンエンジンとエレクトロスプレー推進機の2種類のマイクロスラスタを取り上げ,その特徴と現状の成果,課題について述べる.また,推力には直接寄与しないが,重要な構成要素である電子源についても紹介する.
高度な工業製品やインフラストラクチャの普及に伴い,さまざまな環境下で製品や建造物の信頼性や安全性を確保するセンシング技術の創出が急務となっている.テラヘルツ(THz)帯の電磁波を用いたイメージング技術は,対象物を非破壊で検査するための有望な計測法の1つと期待されている.そのため現在,可視光域のように汎用的・簡便に使用できるTHz計測システムが求められている.本稿では,単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)フィルムを用いたフレキシブルな全方位THz撮像チップとその検査応用について紹介する.SWCNTs THzセンサの検出性能に関わる物理パラメータをチューニングし,その最適化に基づいてフレキシブル全方位THzイメージャやウェアラブルTHz検査グローブを開発した.これにより,対象物の形状や測定環境に制限されない自由度の高い非破壊検査が可能となった.
クリーンエネルギー源としての太陽光発電(PV)を理解するため,まず,PVによるCO2削減効果,ならびに太陽電池の製造コストや発電コストの表し方を整理する.次いで,市場の95%を占有しているSi太陽電池と,Si以外の太陽電池の現状,技術動向を述べる.また,今後の高効率化に向けて必ず必要となるタンデム化の考え方を紹介する.最後に,PV社会の将来像を描くとともに,将来像実現に向けた課題を述べる.