2011年8月19日に閣議決定された第4期の科学技術基本計画にも大きな位置づけをもつ国際標準化に関して,ナノテクノロジーを代表例として解説した.国際標準化を推進しているISO/TC(International Organization for Standardization/ Technical Committee)229の体制と目的,これまでに出版された標準などの活動概要を示し,併せてナノチューブの計測と特性評価に関わるWG(Working Group)2の活動展開を中心に記述した.さらに,欧州に対してナノリスクの評価に向けた国際的な協調体制の推進を求めた事例と,それに関わるナノ材料の物理化学的特性評価項目を紹介した.また研究開発と国際標準化の一体的な推進事例の紹介と,それらを踏まえて今後の応用物理学会の活動への期待を述べた.
光格子時計は魔法周波数のアイデアを導入し,新たな原子時計の設計指針を与えた.レーザー光の周波数測定や制御技術の成熟とも相まって,光格子時計を含む光時計はこの10年余り急速な勢いで精度向上を遂げている.この結果,現在のSI秒の精度を上回る光時計が世界中で開発され,秒の再定義の必要性を促している.18桁の精度を目指して開発が進んでいる光時計は,我々に異次元の時間資源を提供し,相対論的時間の工学応用や基礎物理の探索など新たな展開が始まろうとしている.
本稿では,面発光レーザー研究の発端から発展までを振り返ってみる.1977年に発案し,1978年に1.3μm帯の構造ができ,1979年に液体窒素温度でパルス発振した.1982年に共振器長6μmの短共振器面発光レーザーによってはっきりとした面発光レーザーデバイスの見通しが得られた.室温連続動作達成は1988年夏である.その後,低消費電力の特性が活かされ,1999年ごろからイーサネットの光源,レーザープリンタやコンピュータ用マウス,スーパーコンピュータなどの光配線に応用が広がっている.
CD-Rとは「記録できるコンパクトディスク」を意味するCompact Disc Recordableの略称である.1988年太陽誘電が世界に先駆けて開発に成功し,標準化された光ディスクであり,世界の年間生産量が100億枚を超えた唯一の電子記録媒体である.ここでは,CD-Rの発明に至った開発ストーリーを三つのブレイクスルーを中心に解説し,次いで,その構造や記録のメカニズム等のCD-Rの基盤技術を説明する.さらに,CD-Rの進化と市場の拡大の経緯について述べ,最後に,なぜCD-Rが成功したのかを分析する中で,研究開発における「何を創るか」という商品企画(商品ターゲットの設定)の重要性について著者の考えを述べる.
1980年に誕生したHEMTは,素子の基本構造や製作技術において従来デバイスとは一線を画するユニークなデバイスであったため実用化にはかなりの困難が予想されたが,5年後の1985年には電波望遠鏡の低雑音増幅器としてデビューした.さらに1987年頃には衛星放送受信用の低雑音増幅器として広く普及し,現在全世界で年間約10億個の量産デバイスにまで成長した.ここではHEMTの初期の試作・開発がどのように進んでいったかを中心に述べる.
垂直磁気記録の発想とその研究開発の過程について述べ,さらに,この研究の体験から得られた科学技術研究についての考えを示した.垂直磁気記録は水平記録の極限を追求する中から生まれた.新しい研究の推進には,垂直と面内記録の相補性という指導原理が大きく貢献した.革新的技術の実用化に必然の「死の谷」を経験したが,原理に対する確信と強い産学連携により実用化に至った.垂直磁気記録は,科学に始まり技術にまで展開できたわが国では稀【まれ】な成功例といえる.また,時代が追いついた研究例でもある.科学技術の研究は,テーマの独創性だけでなく,技術として成熟するまで責任をもって推進する必要がある.技術は新たな発想の基盤となり,科学の父でもある.
現状最新の光ディスク規格であるBDXLを例に,光ディスクの記録および読み出しの方法を解説した.BDXLで3層100GBまたは4層128GBの大容量化を実現するために,ディスク構造と光学系の工夫で層間クロストークを低減するとともに,PRML方式により符号間干渉が増大しても復号を可能とし,高精度記録波形制御により微小マークの高精度記録を実現している.