電力機器や産業機器における高温超伝導線材の真の実用化には,現在の特性値を超える線材および薄膜材料の開発が必要になっている.Bi2223,Bi2212,Y123を中心にMgB2 などを含めた実用線材の製造プロセスの特徴を述べ,臨界電流(Ic),そのひずみ依存性,交流損失・機械的性質などの製造プロセス,微細組織や線材構造についての依存性を分析し,それらの現状における到達点,材料特性改善の可能性とその方策について検討した.各種の線材の工学的臨界電流密度,ヤング率,破壊強度,線材の場合には連続して製造できる線の長さを L としたときの Ic・L 積について相互比較を行い,Ic・L=300kAmが高温超伝導線材の実用化の目標になることを提案した.
発見以後17年にわたる銅酸化物超伝導体に関する研究の進展を,最新の話題も含めて物質科学的視点から解説する.まず,銅酸化物超伝導体の化学組成,結晶構造の特徴をあげ,物質探索の足跡を合成手法の変化とあわせて述べた.次に銅酸化物超伝導体の本質的な基礎物性の理解を促した高品質単結晶の育成について記したが,ここでは金属および酸素組成の不定比性の制御が重要であったことを強調した.最後に,銅酸化物超伝導体の臨界電流特性の特徴を異方性と磁束線の性質および磁束ピニングサイトの観点から論じ,最近の化学組成制御による強力なピニングサイトの生成例を紹介した.
高温超伝導体の基礎物性の現状での理解をまとめると同時に,その特異な性質が実用化開発へ与える影響について議論する.基礎物性研究の中心である電子相図については,解明されていない問題点を列挙する.また,特異な性質として,二次元性,d波対称性,短いコヒーレンス長,擬ギャップ現象,ストライプ秩序をはじめとする不均一電子状態などを取り上げ,それらと臨界磁場・臨界電流などの超伝導特性を決めるパラメーターとの関係について述べる.
免疫検査とは,病原菌やがん細胞などのバイオ物質を検出する際に用いられる基本的な測定法である.従来の光学的手法を用いた免疫検査とは異なる新しい検査法として,磁気マーカーとSQUID磁気センサーを用いた磁気的な免疫検査システムが最近注目されている.これまでの研究により,本システムは従来の光学的方法に比べて10倍以上高感度に免疫反応の検出が可能であることが示されている.本システムの改良により,従来に比べて100倍以上の高感度性が期待されており,これが実現されればバイオ免疫検査分野における画期的な装置となる.
単一走行キャリア・フォトダイオード(UTC-PD)の動作帯域は現在300GHzを超え,光ファイバー通信システムにおける受光デバイスとしてだけでなく,ミリ波帯(30〜300GHz)の信号発生源としても有望である.本稿では,UTC-PDを用いたミリ波発生技術と,アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)プロジェクトにおける超伝導SIS受信機の局部発振器への応用について,最近の研究状況を解説する.
ウイスカー十字接合は,2本の高温超伝導ウイスカーをMgO基板上で交差させ熱処理するだけで,だれでも簡単に作れるジョセフソン接合である.高温超伝導体のオーダーパラメーターはd波的な異方的対称性をもつため,2本のウイスカーの交差角は接合特性に反映される.われわれは,その制御性を利用し,ジョセフソン臨界電流密度や,プラズマ周波数,ジョセフソン侵入長などのパラメーターを制御し,シャピロステップ,フラウンホーファーパターン,SQUIDの磁場応答などの測定に成功した.ウイスカー十字接合は特性制御可能な,新たな高温超伝導単一SISトンネル接合である.超伝導オーダーパラメーターを利用した新たなデバイス開発が期待される.
単一磁束量子を利用したジョセフソンデバイスと,トンネル電子の帯電効果を利用した単一電子デバイスとの間には,ある種の双対性がある.本稿では,筆者が単一電子ポンプとの双対性からヒントを得て開発した単一磁束量子ポンプについて紹介する.単一磁束量子ポンプでは,位相差のある二つのゲート磁束信号を印加することにより,ゼロバイアスもしくは逆バイアス条件下においても,磁束量子を「くみ上げる」ように駆動することができる.ポンプ動作時には,電流−電圧特性上に,ゼロバイアス電流軸を横切るシャピロステップが発生する.単一磁束量子ポンプの動作原理,デバイスの試作と測定結果,プログラマブル電圧標準応用への利点と課題について述べる.
2003年に,高等学校新課程での物理教育が始まった.物理は物理Iと物理II (ともに3単位) の2科目からなる.物理Iには中学校から11項目が移され,3単位で消化できるかどうか懸念される.物理Iの体系的な学習内容は物理IIに移り,「物質と原子」と「原子と原子核」の選択分野ができた.選択を含め物理IIを全部学ぶには4単位の時間が必要だが,さまざまな制約から多くの高校では3単位しか配当できない.大学入試で物理IIの全範囲を要求すると,3単位の時間で4単位分を教えることから,未消化の学習を強要し,物理嫌いを拡大させ,結果として高校での物理教育を崩壊させるであろう.ここで,大学入試での物理IIの取り扱いについて一つの提案を行う.
30年先の高温超伝導の究極の姿は,自然エネルギーを生かす超伝導電力地球ネットワークと,クリーンで高速な超伝導磁気浮上列車地球ネットワークである.さらに環境浄化に向けた磁気分離と超伝導デバイスを用いた通信技術の導入が大規模に生じると予測する.
光ファイバー増幅器の増幅帯域を拡大することは,波長多重伝送技術やクロスコネクト技術をベースにしたフォトニックネットワークを開発していくうえで重要である.本稿では,希土類添加光ファイバー増幅器とファイバーラマン増幅器について,広帯域化を行うための手法について解説するとともに,これまで開発された広帯域光ファイバー増幅器の特徴について述べる.