GaAsなどの化合物半導体の量子井戸においては,円偏光で光励起することによって,容易にスピンの揃った電子を生成できる.われわれは,GaAsとInGaAs量子井戸の電子のスピン緩和過程の時間分解計測を行った.その結果, GaAs量子共戸の電子のスピン緩和時間は数十ピコ秒と高速であり,D'yakonov-Perel'効果と呼ばれる緩和メカニズムに支配されていることが明らかにになった.また,InGaAs量子井戸の電子のスピン緩和はGaAsのそれより一桁以上高速であるということがわかった.半導体量子構造のスピン緩和遇程は,超高速であること,量子閉じ込めによる大きな光非線形牲効果によリスピンに依存した明瞭な光応答(吸収率や屈折率の変化)を示すこと,川-V族化合物半導体であるため既存の光デバイスと材料的な親和性を持つこと(同じプロセス技術を適用でき,またモノリシック化の可能性も持つ)などの応用上優れた特徴を持っている.90年代に入ってようやく明瞭に観測可能になったスピン緩和のダイナミクスについて報告する.
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