金属中に生じるプラズマ共鳴は,金属がナノ構造をもったときにその表面においていくつかの特異な光現象を発現する.これを利用したナノ分解能の近接場顕微鏡やナノ光回路,単一分子計測や分子センサ,癌【がん】治療や太陽電池,レーザー,ホログラフィなど,さまざまな分野で表面プラズモン活用のアイデアが提案されている.この科学は「プラズモニクス」と呼ばれ,ナノフォトニクスの新しい分野として,さらなる発展が期待される.本稿では,プラズモニクスの原理とその限界について概説し,未来を探る.
光化学の研究において,分子の吸収断面積によらず,照射された光を高効率に分子に吸収させる「光の有効利用」という新しい概念が注目されている.我々は,光と分子を強く結合させ,光の有効利用を可能にする光反応場として,局在プラズモン共鳴によって高い光電場増強効果を示す金属のナノ構造体に着目した.金属ナノ構造が示す光電場増強効果は,分子の光励起を高効率に誘起し,微弱な光によるフォトレジスト材料の空間選択的な2光子重合反応を可能にした.また,金ナノ構造を配列した酸化チタン電極を用いた光電気化学測定により,可視・近赤外光を光電変換できることも明らかにした.
プラズモニック導波路は,金属と誘電体の界面を伝搬する表面プラズモン・ポラリトンを利用する金属光導波路である.金属は可視光域で負誘電体であり,プラズモニック導波路は負誘電体光導波路に分類される.誘電体光導波路では回折限界のために光ビーム径の微細化が制限されるが,負誘電体を用いることによって,原理的に光ビーム径をナノメートルオーダまで縮小することが可能となる.このため,プラズモニック導波路はナノプラズモニクスのキーコンポーネントとなっており,将来はナノ光集積回路への応用も期待されている.プラズモニック導波路の原理と研究の現状について解説する.
金属微細構造近傍では入射光に比べて著しく高強度の電場を伴う局在プラズモンが発生する.この局在光電場を利用すれば分子のような反応断面積の小さな対象に光を効率よく作用させることができるため,これを利用して高感度な計測や観測,運動制御を実現するための研究が盛んになっている.最近では,単に増強場が分子に働きかける側面だけではなく,金属構造と分子が量子力学的な結合系として振る舞う点に注目することによって分子光学の新しい可能性を探求する研究も現れてきた.本稿ではこのような視点を取り入れた理論的考察を例にして,局在プラズモンを利用した分子光学の新しい可能性を議論する.
金属ナノ粒子中の局在表面プラズモンを用いた生体検出や医療への応用について,最近の話題を二つ紹介する.一つは表面プラズモン共鳴による表面増強ラマン散乱を使った生体物質などの検出や生体組織のイメージングである.もう一つは,それを用いた近赤外光の高効率利用である.高コントラストな生体組織の近赤外イメージングやがんの光熱治療が研究されている.
光デバイスも電子デバイスもそれぞれ単体では微細化の限界に達している.近年,それぞれのデバイスのキャリヤである光と,電子を結合させたデバイスの開発が盛んに行われている.この光・電子融合デバイスとして,近年,半導体微結晶によって構成され近接場光で動作するナノフォトニックデバイスが提唱され,その基本動作検証が報告されている.本稿では,このデバイスの室温動作実現を目指して取り組んでいる酸化亜鉛(ZnO)量子構造を用いた成果について紹介する.
金属製の微小共振器の集積構造体であるプラズモニック・メタマテリアルを利用すると,既存の物質では実現できない光学特性をもつ光学材料を実現することができる.本稿では,メタマテリアルとプラズモニクスとの接点を中心に,メタマテリアル共振器に励起されるダークプラズモンやそれで実現できる疑似電磁場誘起透明化現象,高屈折率物質の実現ならびにレーザーを用いた3次元メタマテリアルの加工技術を紹介する.
近年,表面プラズモンを利用したナノデバイスにおいて,飛躍的な性能の改善が報告されてきている.本稿では,表面プラズモンを利用した光アンテナ機能について紹介するとともに,これを実際のフォトダイオードに適用した最新の研究動向と今後の展開について概説する.
色素増感太陽電池は,一方の導電ガラス上に,焼成によって作成され,内表面に色素が担持されている数十ナノメートルオーダのチタニア多孔質膜を有し,対極となる他方の導電ガラスとの間にI-/I3- の酸化還元反応を起こす電解液が満たされた構造を有する湿式太陽電池である.本稿では,金属ナノ粒子の局在表面プラズモンにより形成される近接場光の局所電場増強効果を利用し,色素のMLCT(Metal to Ligand Charge Transfer)遷移による光キャリヤ生成を促進し,光電流の増加によって色素増感太陽電池の光電変換効率が向上した結果について述べる.また,これらの変換効率の向上には,金属ナノ粒子の表面修飾物が大きな役割を果たしていることがわかった.
ナノフォトニクス技術を用いるバイオセンシングは,近接場光による分子オーダの局所領域への照明によって,従来の伝搬光を用いる光センサでは得られなかった高いS/Nを可能とする技術である.特にプラズモン共鳴によって増強された近接場光を用いることで,極めて高感度のセンシングが可能になることから,バイオセンシングの基盤技術として期待され,表面プラズモン共鳴(SPR)を用いるセンサが既に実用化されている.本稿では,次世代のナノフォトニクスバイオセンサとして,表面プラズモン増強蛍光(SPFS)および表面増強ラマン散乱(SERS)について紹介を行う.
「測定の不確かさ」は,七つの国際機関の協力で1993年に発行された「計測における不確かさの表現のガイド」により国際的に使用が推奨されることとなった比較的新しい概念である.その後,世界的な規模でその概念や推定法の普及活動が行われた結果,今日では,適合性評価活動での使用を中心に,計測の信頼性を示す定量的パラメータとして「誤差」より有力な用語となっている.本稿では,その経緯,背景,適合性評価での役割と推定法のあらましについて概説する.