近年,μm〜mmスケールの微小なプラズマが注目されてきている.大気圧を含む高気圧領域で生成されるマイクロプラズマは,低圧下のマクロスケールで生成される従来のプラズマとは違ったプラズマパラメーターや微小空間に起因するパラメーターで特徴づけられる.そのような特性をプラズマ本来の反応性,発光性,導電・誘電性と組み合わせることによって,材料合成や微細加工,化学分析やフォトニックデバイスなどへの新しい応用技術への発展の兆しがみえてきた.そこで,マイクロプラズマの生成と診断・シミュレーションの現状や今後の課題とともに,バイオマテリアルのプロセスを含めた多方面への新しい応用の方向を解説し,マイクロプラズマが創成する学術分野や応用技術の将来を展望する.
プラズマスプレーコーティング技術は,超高速堆積の特徴に加え,各種機能材料のコーティング,コーティング界面の制御によって,環境,エネルギーからバイオに至る多彩な産業分野からの要求を満たすコーティング技術として展開しつつある.しかし,さらなる展開を図るためには,技術先行型の本分野を科学的観点から見直し,新たなプロセス原理を導入することが必須であるとの認識がここ数年高まっている.事実,制御性が近年飛躍的に向上し,優れた成果が出始めており,近い将来,超高速でありながら電子デバイス分野など従来対象外であった分野への適用を視野に入れた高品質薄膜や厚膜の作製を可能とする次世代コーティング技術として展開することが確信される.
一般に,プラズマCVDやエッチングは低圧グロー放電で行われているが,大型汎用品の真空下での処理はコストの点で困難が多い.この点を解決する方法として小駒,岡崎らにより,大気圧グロープラズマ法が提案され,現在大型フィルム処理機や,プリント基板の洗浄などに使用されている.大気圧グロープラズマはDBD放電の一種で,Heを主体とするガス中にモノマー気体を少量混入することにより,自動的に高速パルス放電状態になるため,大気圧条件下でもアーク放電に移行することなく低温下で均質な処理が可能となった.この解説では,主に大気圧グロープラズマ法の基礎理論とその応用技術,および本技術の将来への展望などについて紹介した.
次世代シリコンULSIの開発は,これまでのスケーリング則に準じた性能向上路線から脱却すべき時期に差しかかっている.この中で特に,Si-MOSFETのチャネル領域に対して特定方向のひずみを誘起して高移動度化を図る技術が近年注目されている.ひずみチャネル層を形成するうえで,Siと同じIV族系半導体であるGeやSi1-xGex は好適な材料であり,それらで構成されるひずみ緩和層は,現在,実用化を見据えた新たな局面を迎えている.一方で,ひずみを積極的にデバイス構造に持ち込み,高性能・高機能化へと役立てるためには,ひずみの絶対量のみならず,その形態や分布に十分な注意を払う必要がある.同時に,ひずみの誘起と緩和に密接に関連する転位の構造,配置,分布の制御が不可欠となる.本稿では,ひずみチャネル技術にかかわるSi1-xGex を中心に,関連技術の研究動向をはじめ,IV族系半導体へテロ界面におけるひずみと転位のエンジニアリングと最先端評価技術を解説する.
銀河宇宙線は地球大気中で核反応のシャワーを起こし,さまざまな同位体を生成する.代表的な核種は放射性炭素 14Cである.地球に到達する銀河宇宙線強度は太陽活動がつくる惑星間空間磁場に依存するので,放射性炭素の生成率も太陽活動を反映する.本稿では,放射性炭素の測定から過去の太陽活動を復元する方法を概説し,最近の研究結果を紹介する.
先進ナノテクノロジーに必須のカーボン系ナノ材料,特にフラーレンとカーボンナノチューブおよび生体高分子DNAに焦点を絞って,独自のプラズマ源開発に基づいた新規ナノ構造創成研究を展開している.種々のナノスコピックプラズマプロセス制御の結果,電荷とスピンを活用できる稀少原子内包フラーレンの多量創製,ナノ構造創成基本の単独・孤立垂直配向単層カーボンナノチューブ成長,ナノpn接合デバイスにかかわる異原子・分子内包カーボンナノチューブ創製,およびナノ・バイオ融合にかかわるDNA内包カーボンナノチューブ創製が実現されている.
ナノ粒子に代表されるナノブロックを合成し,それを設計図どおりに組み合わせ三次元構造を作製する量産ナノ加工技術の構築を目指した研究として,反応性プラズマを用いたナノ粒子の気相合成と,ナノ粒子含有膜堆積への応用に関して紹介する.この方法では,数nmサイズのナノ粒子を狭いサイズ分散で合成した後,基板上へ輸送し,ラジカルとともに堆積する.1回のプロセスでナノ粒子含有薄膜を堆積でき,しかも同一の装置と材料を用いて,1.7〜3.5の比誘電率を制御性よく実現できる.
フェムト秒レーザーアブレーションは,ナノ秒やピコ秒レーザーには見られない低アブレーション率を示すだけでなく,波長に制限されないナノ周期構造物を形成できることを特徴としている.現在,この特徴を活かした表面構造制御のための新しい機能性付与加工技術の確立を目指した研究を行っている.ここでは,フェムト秒レーザーアブレーションがカーボンナノチューブ電極の電子放出特性(ターンオン電界,高電流密度)の向上に有効であることを示した成果を紹介する.
高電圧パルス電界を利用することで,窒素ガス中でも安定かつ大面積の大気圧プラズマ発生が可能になり,LCDガラスの洗浄や,プリント配線分野の表面改質に有効であり実用化されている.窒素ガスを主とする洗浄メカニズムを発光分光や表面分析(XPS)より考察した.
結晶化初期過程である「核生成」は,1930年代に古典的核生成理論により提唱され,「常識」とされているが,「核」の数密度が小さすぎて直接観察が困難だったために,いまだに検証されていない.したがって核生成の真のメカニズムは未解明である.われわれは高分子の核密度を「核剤」を用いて増大させることにより,核生成の小角X線的直接観察に初めて成功し「核生成の実体」を明らかにした.高分子は巨大な“ひも状分子”なので,流動場では融液中分子が容易に引き伸ばされて結晶化挙動が著しく変化する,と“推論”されてきたが,直接的証拠はなかった.われわれは新たに発見した「渦巻き結晶」の成長を直接観察することより,高分子が引き伸ばされて“配向融液”になり結晶化が加速されるという実験的証拠を初めて得,流動場特有な結晶化加速メカニズムを明らかにした.
窒化物半導体の転位密度の低減に,成長時におけるファセット制御が非常に重要である.GaNの有機金属気相成長(MOVPE)では,選択成長の結晶形態は成長温度,成長圧力などにより制御できる.ファセット構造を制御しながら選択横方向成長(ELO)を行うFACELOにより,106 cm-2台まで転位密度の低減が可能となった.また,高いAlNモル分率で低転位密度AlGaN膜を作製するため,凹凸のあるエピタキシャルAlN基板を下地として用いてMOVPE法により成長を行った.この方法により,107cm-2台までAlGaNの転位密度の低減を可能にした.