光検出磁気共鳴(ODMR)顕微鏡は,ダイヤモンド中の窒素‐空孔(NV)センタをセンサとして用いる新しい顕微鏡である.室温・大気中で,高感度かつ定量的にナノスケールの空間分解能で磁場,電場,温度などの物理量を計測できる.ナノスケールの検出体積において核磁気共鳴が観測できるなど,これまで見ることができなかった現象の観察が行われている.本稿ではNVセンタの基礎およびODMR顕微鏡の原理から始まり,幅広い分野でのODMR顕微鏡の応用例を紹介する.
電子がカイラルな分子を通過すると,スピン偏極が生じるという現象(CISS)を利用して,新たなスピン偏極電流源を作製した.このデバイスで我々が用いたのは分子モータと呼ばれる可動性の分子で,光と熱によって1方向に内部回転を行う.この回転が4ステップに分割されたカイラリティ反転を伴うため,モータ分子の薄膜を内蔵したスピンバルブに対して光を照射したり熱を加えたりすることによって,電流のスピン偏極を反転させることに成功した.これは新たなタイプの再構成可能なスピン偏極デバイスであり,電子回路におけるスピン偏極源としての有機分子の可能性を示している.
ウェーハの厚さ100µm以下の薄型Si太陽電池の製造を可能とするため,Rib構造の研究開発を行っている.Rib太陽電池では,機械的強度を保つため強度の強いウェーハの一部を梁(Rib)として残し,それ以外の部分を薄型化する.本稿では,まずRib構造作製のプロセスならびにヘテロ接合太陽電池を作製するための界面パッシベーション技術を紹介する.Rib太陽電池では,Siが厚い部分と薄い部分が面内で分布している.そこで次に,フォトルミネセンス,エレクトロルミネセンスなどを用いて特性分布を評価した結果を紹介する.最後に,本研究開発の将来像を展望する.
固体電解質とLi金属負極を組み合わせ,リチウムイオン電池(LIB)を超える高エネルギー密度を実現する蓄電池の開発が期待されている.立方晶Li7La3Zr2O12(LLZ)は,高い剛性率とイオン伝導率,またLi金属に対する耐還元性を併せもつことから,実用化が期待される酸化物系固体電解質である.本稿では,LLZ表面でLi金属負極を充放電する際に生じる短絡の問題とその解決に向けた取り組みについて紹介する.
プロトン性固体酸化物燃料電池(H+-SOFC)は中温作動型(400〜600℃)の根量電池として期待されるが,一般に500℃以下になるとオーム抵抗とカソード分極抵抗が増大し,効率が低下する.この問題に対し,近年ヘテロ構造などに基づいた新構造燃料電池が検討されている.ここでは,電解質/水素透過合金アノード‐ヘテロ接合を特徴とする水素透過合金支持型燃料電池(HMFC)が,プロトンポンピング効果により,比較的低い温度でも高いエネルギー変換効率を達成できることを報告する.HMFCでは,ヘテロ界面における酸化物イオン副キャリヤの伝導ブロッキングにより同イオンが電解質バルク中に蓄積し,この負電荷を補償するために過剰なプロトンキャリヤが取り込まれ,その結果高いプロトン伝導性を発現する.したがって,全く同じ電解質膜を使っても,HMFCは多孔質アノード支持型燃料電池(PAFC)より高い出力を生むことができる.
初期の超伝導物質探索においてマティアス則が活躍した.マティアス則とは,遷移金属およびその合金の臨界温度Tcがある特定の物質パラメータの組み合わせにおいて極大になるという経験則で,多くの超伝導物質の発見につながった.ところが最近,計算機パワーの進展に伴い,全く新しい経験的なTc予測法が生みだされる可能性がある.それは最新の超伝導データベースと人工知能技術の一種である機械学習を用いて,計算機に既知物質のTc実験値とその元素の組み合わせを学習させ,得られた学習モデルを未知物質の元素の組み合わせに適用してTcを予測する手法である.これは強いていえば,21世紀版のマティアス則と呼ばれるようなもので,本稿は,この新しい超伝導物質探索手法に関するものである.
サステイナブル社会の実現へ向けては,不都合な事態の未然防止や,あらゆるところで無駄を省く効率化が求められます.それには地球上のさまざまな対象をセンシングし,人工知能(AI)処理により低コストで,必要なタイミングで必要な情報を社会にフィードバックすることが求められます.また,電池を含めたデバイスの軽量化と長時間動作が求められ,さらに,無線通信電力の削減にはクラウドへ上げるデータをエッジデバイス側で高度に圧縮する必要があり,超低消費電力かつ高性能な認識器を作ることが重要となります.本稿では,高機能低消費電力SoC,AIツール,省電力広域ネットワーク(LPWA)技術を例に,これからのIoT社会における低消費電力AI技術の意義と方向性について解説します.