(株)東芝を代表とする日本がNANDフラッシュメモリの技術革新を牽引(けんいん)した結果,iPhoneなどのスマートフォン,USB,SDカード,SSD(Solid State Drive)と広く応用されている.NANDフラッシュメモリは,小型で軽量,静音性に優れ,衝撃に強く,電源を切ってもデータを保持するという優れた特性を有している.NANDフラッシュメモリが発明されなければ,パソコンやスマートフォンの普及が遅れ,デジタル社会への転換も起こらなかったかもしれない.1980年代に東芝でたった10名のグループで研究開発を始めたNANDフラッシュメモリは,2022年には10兆円のビジネスに到達し,今やNANDフラッシュメモリの無い世界は想像できない.
希土類の単純酸化物は,3価の希土類イオンを持つセスキ酸化物が安定で,高い絶縁性を示す.2価の希土類イオンを持つ単酸化物も準安定相として存在するが,EuOとYbO以外は1980年代にバルク多結晶が高圧合成されたのみである.最近になって,薄膜エピタキシにより希土類単酸化物を合成できることが分かった.希土類単酸化物の初めての単結晶性試料もしくは初めての固相試料が得られるようになり,それらの基礎物性が明らかになりつつある.本稿では,希土類単酸化物の合成と物性について概説する.
我々は,多結晶材料の普遍的な高性能化指針の構築を目指して「多結晶材料情報学」を開拓している.多結晶シリコンをモデル材料として,実験・理論・計算・データ科学をマルチスケールで連携させ,複雑な多結晶中の諸現象の理解や,材料創製プロセスの最適化を進めている.本稿では,これまでに構築した研究基盤や,それらの連携・統合により得られた多結晶中の転位クラスタ発生機構に関する新たな知見について解説する.
半導体BaSi2は資源が豊富な元素で構成される禁制帯幅が約1.3eVの間接遷移型半導体である.光吸収係数がCuInSe2系の薄膜太陽電池用半導体と同様に大きく,13族および15族元素のドーピングにより,伝導型およびキャリヤ密度の制御が可能である.これまで培ってきたSi基板上のエピタキシャル膜で得られた知見を生かし,ガラス基板上の薄膜太陽電池への取り組みを紹介する.
リチウムイオン2次電池は我々の生活に欠かせないエネルギーストレージであるが,より安全に使用するという観点から全固体化が進められている.現在使用している有機溶媒を用いた液系リチウムイオン2次電池は製造プロセスを含めて最適化が進んでいるためにコストパフォーマンスに優れる.全固体化するにあたり液系に変わって使用するためにはさまざまなメリットが絶対的に必要となり,本稿では今までの電池作製とは全く異なる視点から開発した,厳重な露点管理が不要な大気ハンドリングできる全固体電池を提案したい.