液晶ディスプレイは今や明確にイノベーションの具体例の一つといってもよいほど大きな産業となり,人間社会そして経済に大きな効果をもたらしている.本稿では,この液晶ディスプレイの産業発展を,その原点となった液晶の発見のときから発明の段階,そしてその応用技術の開発・事業化段階,さらにはその事業の発展段階の各過程を具体的な事例に基づき俯瞰し,この軌跡から新たなイノベーションのための要因を抽出し,今後の研究開発の指針を提案する.
III族窒化物半導体の結晶成長技術は,青色発光ダイオードの実用化から10年以上経過した現在でも多くの問題点を抱えており,よりよい成長プロセス技術の開発が求められている.原料を高いエネルギー状態で間欠的に供給するパルス励起堆積法を用いると,結晶成長の温度を室温にまで下げることができるので,薄膜/基板間の界面反応や混晶の相分離反応が抑制でき,これまで困難と考えられてきた積層構造を実現できる.本稿では,パルス励起堆積法の利用によって可能になる格子整合基板上や金属基板上への高品質III族窒化物の成長の例を中心に,この手法の特徴を説明する.
InNの“新しい”禁制帯幅が報告されてから5年ほどが経過し,「InNは何に使えるのか? 本当に使い物になるのか?」などの質問が出されるようになってきた.本稿では,この問に答えるべく,InNの特長を生かした窒化物系ナノ構造光デバイス実現に向け,最近進展の著しいMBE法によるInN系窒化物のIn極性でのエピタキシー制御について,?分子層レベルの平坦表面・界面の実現,?残留キャリア低減とp型伝導制御の試み,そして?InNを基盤とした窒化物系低次元ナノ構造作製の試みについて,“1分子層”InN井戸/GaNマトリックスMQW構造を中心に紹介する.
Si基板上への窒化物半導体のエピタキシャル成長技術の歴史をまとめた.筆者が行ってきたAlN/GaNの多層膜開発の経緯と多層膜の応力緩和効果を説明した.口径5インチの厚膜成長でもひび割れなしが実現することを述べた.これらのウエハーを使った発光素子や電子素子を紹介した.
青・緑色LEDなどの光学素子に広く用いられているInGaN薄膜中には,基板との格子不整合により〜108cm-2もの貫通転位が含まれている.しかし,この材料系は高欠陥密度であっても高輝度の発光を示し,光学素子としての機能を十分に果たすことが知られている.最近になって,光学測定や陽電子消滅などによる発光機構の詳細な解析が行われるようになり,〈11-20〉に並ぶIn-Nジグザグ列が効果的な発光中心の役割を担うことで,高輝度発光が実現されていることが理解されてきた.本稿では,理論的な観点から薄膜中の原子配列を解析し,実測結果との比較検討を行う.また,成長面方位と原子配列の関係についての議論も行う.
近年,窒化物半導体の薄膜成長装置と走査プローブ顕微鏡を組み合わせ,その表面を原子レベルで評価することが可能となった.主な成果として,膜の極性と表面の組成に依存する表面再構成構造の詳細が明らかになったことがあげられる.最近ではこの手法を用いて,窒化物薄膜成長の極性制御,窒化物薄膜のドライエッチング過程,窒化物薄膜上への金属薄膜成長過程などの研究が展開されている.今後は,強磁性体プローブを用いたスピン偏極走査型トンネル顕微鏡の窒化物希薄磁性半導体への応用など,構造観察に加えて,局所的な物性測定が可能な点を生かした研究が盛んになることが期待される.
レーザー色素を高分子に封じ込め,固体媒質としてレーザーを構築している.製膜やリソグラフィーを利用してストリップ型または利得閉じ込め型の単一モード発振が容易であることから,低コストでディスポーザブルユースが可能な導波型のフィルムレーザーを構築できる.波長域は400nmから1100nmをカバーし,高効率化のために回折格子作製手法の改善や,レーザー媒質のランダム活性化などを行った.表面レリーフ型回折格子を利用し,分布帰還型・分布ブラッグ反射型を評価した.また,多層膜構造で屈折率を0.001レベルで制御しつつ,散乱粒子をドープした活性媒質層を導入することで12%のスロープ効率を達成した.
深紫外光は波長が非常に短いために,ナノテクノロジー,環境,衛生,医療,バイオなどの幅広い分野での利用が期待されている.窒化アルミニウム(AlN)は大きなバンドギャップ・エネルギー(6eV)をもち,発光デバイスに有利な直接遷移型半導体である.このAlNを用いて,半導体では最も短い波長(210nm)で発光する深紫外発光ダイオード(LED)の作製に成功した.一方,窒化ホウ素(BN)も大きなバンドギャップ・エネルギーをもっているが,室温での発光特性が良好なBNエピタキシャル薄膜結晶の成長は困難であった.筆者らは,流量変調エピタキシーとNi基板を用いて,高品質のグラファイト型BNエピタキシャル薄膜の成長に成功した.
窒化物半導体デバイスのさらなる高性能化ならびに新領域開拓のために,無極性面((11-20) a 面,(10-10) m 面など)および半極性面((11-22),(10-11),(30-38)など)に関して研究が行われている.本稿では,無極性ならびに半極性窒化物半導体の有用性について述べ,無極性窒化物半導体の結晶成長の問題点,高品質結晶を得るための筆者らの取り組み,伝導性制御ならびにデバイス応用に向けた筆者らのグループの取り組み,ならびに従来のc面成長の場合との比較について報告する.
有機材料の二光子吸収は種々の応用が期待されている.その展開には高感度な材料の開発が必要であり,開発基盤として,高精度で信頼性のある評価測定技術の確立が不可欠である.本稿では,オープンアパーチャーZ-スキャン法を用いた二光子吸収断面積の測定について解説するとともに,最新の二光子吸収材料の高感度化に関する研究を紹介する.
有機材料はこれまで絶縁材料として主に用いられてきたが,導電性の有機材料の発見は,その後の研究により有機材料の電子・光デバイスへの応用に大きな進展をもたらした.有機薄膜の形成は主として真空プロセスで行われる低分子材料と溶液プロセスで行われる高分子材料の2種類に大きく分類されるが,溶媒に可溶な有機材料は印刷技術で素子作製ができ,大面積に簡単に素子を作製できる特徴がある.多くの導電性の有機材料が研究開発され,エレクトロニクスの分野で活躍している.本稿では主として,導電性の有機材料とその電子・光デバイス,特に有機発光素子とトランジスタへの適用について概観する.