我々の生活に欠かせない元素である炭素からなるカーボン物質は,特殊な物性を示し,構造と次元により大きく変化する.特に,カーボンナノチューブ(CNT)とグラフェンの光学的・機械的・熱的特性は,基礎・応用の両面から高い関心を集めてきた.物性物理の観点からみると,グラフェンの2次元性,CNTの1次元性はともに1nmほどの究極的な量子閉じ込め効果を生みだす.ここ数年の試料・デバイス作製の発展には目を見張るものがあり,ナノカーボン物質はフォトニクス材料としてのユニークな特性を生かして光検出器や発光素子などデバイスへの応用が近づいている.本稿では,これらの物質の基礎的な性質を振り返り,オプトエレクトロニクスへの応用に向けた最先端研究を解説する.
大気圧下でも適用可能な非平衡プラズマの電子温度・密度計測法には,簡便・安価な実用法として期待される発光分光計測法がある.本稿では,その中でも重要と考えられる2つの方法,衝突輻射(ふくしゃ)(CR)モデルに基づいた線スペクトル強度測定法,および電子‐中性粒子制動放射による連続スペクトル測定法について,その原理と実測例を紹介する.特に前者については,モデル計算の結果を実際の分光測定結果に実用レベルで適用するための手法として,「主要素過程抽出法」,「2線対法」,そして「励起温度換算法」の3手法を紹介する.最後に,連続スペクトル計測による実測例を紹介し,この方法ならば原理的には電子エネルギー分布関数(EEDF)をも求められることに触れ,今後の研究展望を述べる.
20世紀末に磁界レンズの収差補正技術が開発されて早(は)や20年近くが経過した.この間,電子顕微鏡の分解能や感度は格段に向上し,今も分解能向上を目指した装置開発競争が世界中で続けられている.収差補正技術の確立によって,材料・デバイス中の局所原子構造を直接観察できるようになって久しいが,これで十分かといえば,電子を用いる顕微手法のポテンシャルを最大限引き出すまでにはまだ至っていない.本稿では,筆者らが現在開発中である,材料内部の電磁場を直接観察する手法と,それを原子分解能観察に応用して原子内部電場を直接観察した研究について報告する.また,原子サイズ以下に絞った電子線で何が観察できるのか,最新の取り組みと今後の展望についても紹介する.
超小型半導体デバイス生産システムであるミニマルファブを用いると,これまで実用には至らなかった多くの物理現象やプロセス技術が利用可能となる.例えば,小口径ウェーハに強く働く表面張力を利用したスピンドロップレットクリーニング法や,0.5µm角の光でウェーハをスキャニングするマスクレス露光技術,また,レーザーを意図的にデフォーカスしてウェーハ全面に照射することで瞬時に1200°Cに達するノンスキャニングレーザー技術,さらには,ノズルプラズマをウェーハスキャンしてウェーハ面内に均一にプラズマプロセスを行う技術などが挙げられる.本稿では,これらの技術開発内容に加え,ミニマルファブという超小型プロセス空間によって見いだされたいくつもの新しい技術について述べる.
生物が進化の過程で獲得した高度な機能やその運用方法には,未来の技術に役立つ知見が秘められているかもしれない.コウモリはイルカと並んで生物ソナーと呼ばれ,超音波を用いた優れた反響定位(エコーロケーション)能力をもつ.自動運転技術などを例にセンシングのニーズが進み,さらにビッグデータ化が加速する今,シンプルな機構で高度な技を成す,生物のセンシングシステムに学ぶ意義は大きい.さまざまな計測手段を駆使し,コウモリのエコーロケーション行動を分析することで,野生下でのダイナミックな採餌飛行や,集団で飛行する際の信号の混信回避に関する実態が,少しずつ見えてきた.コウモリは放射する超音波の特徴を,周囲の状況や得たい情報の性質に応じて巧みに変化させる.彼らの柔軟な超音波運用を模擬できれば,自動駐車や群ロボットの自律走行などに必要な高分解能の近距離センサへの応用展開が期待される.本稿では,コウモリの生物ソナーに関する概要と,最近の研究成果について紹介する.
ベクトルビームは偏光の向きが場所によって異なる光ビームです.これに起因した新規特性が多数見いだされており,その1つが回折限界を超えた微小なスポット形成です.その発生方法や超解像顕微鏡への応用例を紹介します.