表面プラズモンポラリトンは電界局在と電界増強の特性をもつ電磁波モードである.このモードは21世紀の光技術を支えるキーモードであると考えられ,研究が世界的に進められている.本稿では,表面プラズモンポラリトン技術の,ここ4〜5年の研究・開発状況を紹介し,今後の展望を述べる.
物質中の電子状態を観測できる光電子分光法と,時間分解能をもつフェムト秒レーザーパルスを組み合わせた二光子光電子放出を用いると,特定の光励起電子のダイナミクスを実時間で追跡できる.本解説では,この時間分解二光子光電子分光法を用いて観測された単結晶銅表面,および貴金属薄膜中に形成される量子井戸中の光遷移ダイナミクスを例として,表面特有の光励起過程に関して述べる.
表面化学反応や構造変化など表面における超高速の過程を実時間で追跡・観測できる手法の一つとして,和周波発生法を利用した時間分解振動分光法がある.ここで紹介するのは,強力な近赤外光を表面に照射することで生じる急激な表面温度の上昇をトリガーとして,その後の表面吸着分子の構造変化をピコ秒の時間スケールで実時間追跡する方法である.この手法を用いて,温度上昇によるCOのサイトホッピングや多層吸着した氷層中のエネルギー移動,氷の融解・凝固の様子を観測した結果について解説する.
水素は,構造の単純さとその強い量子性ゆえ基礎的に興味深い研究対象であると同時に,クリーンエネルギー源として応用的にも注目を集める存在である.水素分子が物理吸着した表面に光を照射すると,分子は非熱的に脱離する.脱離分子の内部自由度(回転エネルギーと核スピンの状態)は共鳴イオン化法を用いて測定することができ,そこから光刺激脱離やオルト-パラ転換の機構を探ることができる.
非磁性体においても表面では不対電子にスピンの存在が予想される.表面対称性を反映する表面SHG法(SHG:Second harmonic generation)では,表面磁化の対称性に対応する非線形光学応答を選択することにより高感度検出が達成できる.外部磁場でSi(111)-7×7表面のスピンを磁化させ,それを表面SHG法で検出することが可能となった.研究の現状を紹介し,最後に今後の展開を述べる.
真空中で低温の固体表面に気体の水分子を導入すると,表面に水の凝集体すなわち氷の薄膜が形成される.固体表面の温度をコントロールすることによりアモルファス氷や立方晶(Ic)氷の薄膜が形成される.さらに六回対称の表面に氷をエピタキシャル成長させることにより六方晶(Ih)氷を成膜することも可能である.これらの氷薄膜を使うと,宇宙空間,地球対流圏・成層圏をまねた環境下で,氷表面の物性やそこでの不均一反応に関する実験ができる.本稿では,実験室レベルでの低温氷表面に関する最近の研究を紹介する.
プラズモンは媒体物質の次元性やサイズ・形状に応じてそのエネルギー帯域や分散関係が大きく変化する.特に金属中のプラズモンの場合には,フェルミ波長やスクリーニング長がÅオーダーと小さいため,形状パラメーターが原子スケールにダウンサイズした場合,この効果が顕著に現れてくる.本稿では,異なる次元性をもつ原子スケールの金属ナノ構造を制御性よく製作し,その中を伝播するプラズモンの「エネルギー−運動量空間」での挙動が劇的に変わる様子を明らかにした最近の研究成果を紹介し,プラズモン研究の現状と展望を述べる.
走査トンネル顕微鏡と超短パルス光を融合し,空間,時間両領域で極限的な分解能をもつ装置・手法を開発してきた.最近,サブピコ秒領域の現象をトンネル電流として捉えることに成功し,新たな世界をのぞきみる可能性が開けてきた.
カーボンマイクロコイル(CMC)は,アセチレンの触媒活性化熱分解法により得られる一種の気相成長炭素繊維(VGCF)であるが,コイル径がミクロンオーダーの3D-ヘリカル/らせん構造で非晶質という特異的な構造をもっており,特性や応用は直線状のVGCFやナノチューブとは著しく異なる.CMCは,1990年著者らにより世界で初めて再現性よく合成する技術が開発されて以来,新規機能性材料として非常に注目され,実用化も始まっている.本稿では,CMCの合成法,モルフォロジー,特性,および応用の現状を紹介する.
加速電圧1kV以下でも高い分解能での観察が可能な走査電子顕微鏡が材料評価に応用され始めた.電子の侵入深さを抑えた低加速電圧の利用により,表面敏感な観察が可能になり,微粒子などの観察の際の実効的な解像度とコントラストも改善される.また,複数の二次電子検出器を有する場合,表面の組成情報もしくは形状情報が強調された像を分離して測定できる.本報告では,1kV未満で測定した二次電子像と従来から用いられてきた加速電圧5kV以上で測定した像との比較により極低加速電圧SEM法の特徴を紹介する.
金属イオンと有機配位子から自己集合的に組みあがる金属錯体集積体の中には,ナノサイズの均一な細孔を有するものが知られている.この細孔のサイズや化学特性は自在にコントロールすることができ,その中にはメタン・水素の吸蔵や,混合ガスの分離能を示すものがある.また,きわめて小さい細孔を構築することで,取り込まれたガス分子が特異的な凝集状態を取ることも報告されている.本稿では,これらナノポーラス金属錯体のもつ性質,およびその機能について紹介する.