非平衡プラズマは,高い電子温度(数万度)と低いガス温度(室温程度)を有していることが特長であり,低温プラズマとも呼ばれている.高エネルギーの電子がガス原子・分子と衝突し,イオン・励起種・活性種を生成することで化学反応が促進され,薄膜成長,ナノ材料合成などの材料分野とともに,殺菌,がん治療,植物病害防除などの環境・医療・農業分野の幅広い応用分野で利用されている.さらに,電場や磁場によって電子やイオンの運動を物理的に制御することで,高い反応性と制御性を実現することができる.本稿では,プラズマを物理的・化学的に制御する手法を解説するとともに,制御された非平衡プラズマを活用した応用研究について紹介する.
材料開発の分野では,ノウハウ(経験と勘)による“ものづくり”からの脱却,人工知能(AI)を活用した“ものづくり”への移行が進められている.ここで核心となるのは,現実空間の製造プロセスを仮想空間に再現するディジタルツイン技術,いわゆるシミュレーション技術の開発である.本稿では,ナノテクノロジー推進の根幹である化学気相成長を例に,そのシミュレーション技術の最近の進展について解説する.また,AIによる製造条件探索「プロセス・インフォマティクス」への展開について述べる.
近年,次世代の超高速磁気情報デバイスを実現するために,光による磁化制御が大きな注目を集めている.本稿では,磁性体に対して超短パルスレーザー照射したあとの,磁性体内のスピンのダイナミクスを観測した研究について紹介する.実験室のレーザーと大型施設の放射光の組み合わせにより,スピンの超高速なダイナミクスが明らかになる様子をお伝えしたい.
液中で原子分解能を有する周波数変調原子間力顕微鏡(AFM)が報告されて以降,さまざまな装置開発・改良が急速に進展し,弱い分子間相互作用力で会合した有機分子や生体分子の集合体であっても分子内構造や単一官能基レベルのAFM計測が可能となってきた.さらに固液界面の溶媒和構造や揺動構造の空間分布を可視化できる3次元走査型AFMへ発展している.本稿では,固液界面の表面構造・空間分布の可視化に焦点を当て,カンチレバーの選択から具体的な液中AFMの計測例までを紹介する.
ビスマス(Bi)系III-V族半導体半金属混晶(以降,Bi系III-V族半導体)は,元来低温成長が必要である.本研究では,その成長条件とBi系III-V族半導体が有する物性の両方を活用し,光通信帯光源が利用可能なテラヘルツ波検出用光伝導アンテナへの応用を目的としている.そのための分子線エピタキシ法を用いたGaAs1-xBixの低温成長に関する研究成果を紹介する.
分子線エピタキシ法(MBE)は,有機金属気相成長法,ハイドライド気相成長法と並ぶ窒化物半導体薄膜結晶成長手法の1つとして,国内外で長きにわたり研究開発が進められている.本稿では,低温成長や窒素プラズマ源を特徴とするRF-MBE法による窒化物半導体結晶成長の筆者らの最近の成果として,成長用基板として再び注目されているScAlMgO4基板上へのGaN直接成長,窒素プラズマ照射InN表面上へのInN再成長による貫通転位密度低減,グラフェンを用いたInNリモートエピタキシについて紹介をしていく.
層状のバルク結晶から得られる2次元結晶を自在に組み替えて,従来実現できなかった新しいヘテロ構造(van der Waalsヘテロ構造)を作製することができるようになりました.基礎物性の探索を目的とした高品質のvan der Waalsヘテロ構造試料作製の概要を,2次元結晶の作製,探索からその積層方法まで含めて紹介します.