溶液からの結晶成長において,大型高品質結晶を育成するためには,結晶核発生プロセスと結晶育成プロセスをいかに制御できるか,すなわち,溶液状態の制御がどこまで可能か,ということが重要になる.これは,酸化物,たんぱく質,窒化物というように材料が変わっても,普遍的な原理である.ここでは,KH2OPO4,CsLiB6O10,たんぱく質,GaN結晶の溶液成長の事例を説明し,その特徴や類似性について述べる.
筆者らは,独自に見いだした「再沈法」やその改良法である「超臨界再沈法」,「マイクロ波照射法」という有機ナノ結晶の作製法を確立・駆使することにより,種々の有機化合物に関して,サイズ制御されたナノ結晶を作製してきた.加えて,得られた有機ナノ結晶の光学物性や反応性を詳細に調査した結果,有機ナノ結晶に特有のサイズ効果が発現することを究明した.また,光・電子機能材料への応用展開に向けて,有機ナノ結晶の高濃度集積薄膜化や分散液中の有機ナノ結晶の外場配向制御・固定化という材料化手法を開発することができた.以下に,有機ナノ結晶に関する筆者らの研究を紹介する.
ゲート絶縁膜に強誘電体を用いる不揮発性メモリートランジスタのデータ保持機構を解析し,長期間データを保持するためには,強誘電体膜とSi基板との反応を防止するためのバッファ層に高誘電率材料を用いる必要のあることを明らかにする.次にこの方針に基づいて,バッファ層にHfO2を選択し,Bi系強誘電体膜との組み合わせにより,1カ月以上データを保持できるトランジスタを作製した結果について紹介する.最後に,この形式の強誘電体メモリーを実用化するうえで残された問題点について議論する.
ガラスはフォトニクス時代を支えるキーマテリアルである.ランダムなガラス構造の中に規則的周期構造を導入し,第二高調波発生などの非線形光学現象を付与することが強く望まれている.周期構造導入の最も代表的な例は,ガラスへの結晶相の位置選択的な形成である.本稿では,筆者らが開発した希土類原子加熱法(レーザー誘起結晶化法)によるガラス表面への非線形光学結晶ラインの形成について紹介し,新規な光導波路創製の可能性を展望する.
画像診断装置であるPET(陽電子放出断層撮像装置)は,がんの早期発見が可能なことから注目され,急速に普及している.PETの性能向上には放射性薬剤から放出される高いエネルギーの γ 線(511keV)を高感度で検出する必要があり,そのため用いられるシンチレーターには高密度,短い蛍光減衰時間などが要求される.このような要求を満たすシンチレーターとして,現在は無機単結晶材料が使われている.本稿では,PETの高性能化,特に感度向上に焦点を当て,それを達成するためのシンチレーターへの要求と,それを実現してきたシンチレーター単結晶の材料技術と γ 線検出器の進歩について述べる.また,現在検討されている次世代PETと新材料についても触れる.
有機半導体材料は元来塗布による薄膜形成が可能であるため,プリンタブルトランジスタへの展開が期待されている.有機半導体材料であるペンタセンはアモルファスシリコン並みの移動度を示し,有機トランジスタへの検討が進められているが,これまでこの材料の難溶性により,塗布薄膜形成が困難と考えられてきた.最近,ペンタセンの可溶化が可能となり,この溶液塗布形成により,高結晶性薄膜と良好なトランジスタ特性を発現することがわかった.この可溶化と薄膜化の手法,形成した薄膜の構造,トランジスタ特性を説明するとともに,溶液からの有機半導体結晶成長機構について考察する.
Masonは著書「Piezoelectric Crystals and Their Application to Ultrasonics (1950)」に圧電結晶の材料定数評価に必要なカット(結晶基板)および振動モードを系統的にまとめ,その書は現在でも多くの研究者により引用,参考にされている.また,同書では低対称である単斜晶系のうち,圧電性を有する点群2に関して記述があるものの,点群mに関しては報告がない.ここでは,近年,光学結晶として注目されている希土類カルシウムオキソボレート結晶の圧電特性評価を目的に,同結晶が属する点群mにおける材料定数評価方法,その材料定数を用いた弾性表面波解析について紹介する.
浮遊帯溶融(FZ)法による固体レーザー用バナデイト単結晶の育成と,そのレーザー特性について紹介する.FZ法はるつぼが不要であるため,高酸素分圧下でのバナデイトの結晶育成が可能であり,結果として,包有物などの巨視的欠陥の生成が抑制される.また,温度勾配が急峻であることから,ドーパントを高濃度添加した結晶を10mm/h以上の高速で育成することもできる.FZ法によって育成されたNd:GdVO4およびNd:LuVO4単結晶を用いて,いずれも高スロープ効率ならびに低しきい値でのレーザー発振が実現されている.この結果は,FZ育成バナデイト単結晶の品質がきわめて優れていることを示している.
最近,すばらしい光学特性をもつ透明セラミックが新しい製造方法で合成されるようになってきた.その例として,1993年に筆者は,チョクラルスキー法で作製された高品質のNd:YAG単結晶の光学特性に匹敵する多結晶Nd:YAGセラミックを作製することに成功した.理想的な組織構造をもつNd:YAGセラミックは極低散乱で屈折率の均一性もきわめて良好であり,高いビーム品質と高いレーザー発振効率を提供できた.今後,光学品質の多結晶セラミックは,さまざまな応用分野で,従来の光学単結晶の特性を凌駕する可能性がある.
分子シミュレーションは,統計力学の数値計算法である.対象とする物質系の相互作用エネルギーと物理的条件(統計母集団の種類とその状態変数の値)が与えられると,分子シミュレーションからその構造と物性値を予測することができる.分子シミュレーションには,モンテカルロ法と分子動力学法という二つの方法があり,また物質系の相互作用エネルギーを計算する方法として,電子レベル(分子軌道法・密度汎関数法),原子レベル(原子間ポテンシャルエネルギー関数),分子レベル(分子間ポテンシャルエネルギー関数)の計算法がある.ここでは,分子シミュレーションの基礎から最近の発展までを解説する.