(国研)宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所電気推進研究室が,米欧露とは技術的に一線を画して研究開発したマイクロ波放電式イオンエンジンは,「はやぶさ」小惑星探査機の主推進として採用され,地球〜小惑星間宇宙往復航行を世界に先駆けて実現した.高効率・省電力でプラズマを生成しながら1台当たり2年間にも及ぶ耐久性を宇宙で実証した.宇宙活動と同時並行で行われた地上におけるさらなる研究開発は,光ファイバを用いた新たな探針法によりイオン源内部現象を解明し,性能向上をもたらした.改良されたイオンエンジンは,「はやぶさ2」小惑星探査機において,新たな小惑星に向けてその能力を今まさに発揮中である.本稿では,従前の電極を用いる直流放電式システムと比較しながら,電子サイクロトロン共鳴型イオン源の高い性能と耐久性を解説する.
走査型非線形誘電率顕微鏡(SNDM)は10-22Fという極微小な静電容量変化に対して検出感度があるため,pnの区別が容易で,低濃度から高濃度までの非常に広い範囲でドーパント分布を検出できる.Siに比べて信号強度の弱い化合物半導体のドーパントも高SNで計測可能である.またdC/dV計測で問題となる2価関数性(コントラストリバーサル)も回避することができる.高階の容量-電圧微係数も計測でき,計測ピクセルごとに局所C-V曲線も取得可能である.超高真空中では原子分解能観察も可能である.これらの特長は全てSNDMの群を抜いた高感度特性からきている.本稿ではSNDMによる半導体評価技術とその応用計測例について紹介する.
半導体ナノレーザーの基本要素は,光共振器とレーザー利得媒質である.光共振器としては,ピラー,ナノワイヤ,フォトニック結晶,リング・ディスクなどが探求されてきた.一方,利得媒質としては,単位体積当たりの利得ピークを最も高くできる量子ドットが有望である.本稿では,微小な素子体積を有するナノレーザーの実現に向けて,ナノワイヤ量子ドットレーザーに関する最近の研究の進展について述べる.まず,ナノワイヤ量子ドットレーザーの形成と光学評価について論じるとともに,室温におけるレーザー発振の達成を報告する.また,最近,金属膜/シリコン基板にナノワイヤ量子ドットを置くことにより,ナノワイヤ・プラズモニック量子ドットレーザーの発振を実現したので,この成果についても紹介する.
放送,監視,科学計測,産業計測などの分野で活用される超高感度CMOSイメージセンサ(CIS)の技術について解説する.ピクセルからの信号を,ダイナミックレンジを保ちながら極低ノイズで読み出す折り返し積分型A-D変換器によって,1光電子相当の読み出しノイズと80dB(4桁)のダイナミックレンジを両立した.0.3電子相当の極低ノイズを実現したCISの応用など,今後の展望についても述べる.
次世代パワーデバイスとして期待される炭化ケイ素(4H-SiC)MOSFETの心臓部が,窒化したMOS界面(4H-SiC/SiO2界面)である.この界面で何が起こっているのかを私たちの欠陥評価を基に概観した.電子スピン共鳴(ESR)分光や電流検出ESRを使って窒化前後の界面欠陥の変化を追ったところ,窒化によるチャネルへの窒素ドーピングと,炭素由来の浅い界面準位,および深い界面準位の減少が観測された.窒化処理によるSiC-MOS界面の変化は窒素ドーピングによって多くの説明ができるが,それだけでは説明できない部分も残されており,まだまだ基礎研究が必要な系となっている.
超高圧高温下での温度差法による単結晶ダイヤモンドの合成において,溶媒組成および窒素ゲッタや添加物の選定と最適化,高品質種結晶の適用,合成温度条件の厳格な制御などの技術開発により,直径12mm(約10カラット)の大型で高品質な高純度(IIa型)単結晶ダイヤモンドが合成可能となった.このダイヤモンドは,天然や従来の合成のダイヤモンドをはるかに超える高い結晶性を有する.極めて高純度であるうえに,内部歪(ひず)みや結晶欠陥が非常に少ない.特に{100}セクタ内には転位欠陥や積層欠陥もほとんど見られない.この高い結晶性を生かして,分光結晶や光学素子に活用されている.将来的には電子デバイスや量子デバイスなどのエレクトロニクス分野への展開も期待できる.
一般に,レーザー光を用いた材料の合成では,パルスレーザーを集光して局所的に大きなエネルギーを得る.これに対して,連続発振レーザーを広げて用いることで,大きな領域に活性な化学気相成長場を作り出すことができる.気相からの自己配向成長や自己組織化の技術は,実用工業材料に新たな価値を見いだすものである.本稿では,レーザー光を利用した実用セラミックス材料の化学気相成長法(CVD)を紹介し,電子顕微鏡を通して気相からの高速結晶成長を観察する.
非線形を用いた光制御は多彩で高速な反面,一般に効果が小さい.しかしSiフォトニック結晶導波路の強い光閉じ込めとスローライト効果を用いれば,これをオンチップで手軽に増強することができる.本稿では特に,2つのスローライトパルスが同時に伝搬し,相互作用を起こす系を紹介する.増強された非線形に,スローライトが得意とする群遅延や分散の操作をミックスすると,断熱的波長変換,高速遅延チューニング,パルス圧縮,ドップラーシフトといった機能が得られる.
半導体基板およびエピタキシャル膜の基礎的な電気特性の中では,抵抗率,伝導型(p型またはn型),多数キャリヤ濃度と多数キャリヤ移動度が重要です.これらを測定するために,ホール効果測定を用います.本稿ではホール効果測定の簡単な説明と,測定結果の検証および解析方法に関して解説します.