メーザーとレーザーの発明が科学技術に与えた衝撃と,研究者に与えた影響は大きかった.特に,最初のレーザーであるルビーレーザーとHe-Neレーザー発明前後の様子を,文献に現れなかった裏話も含めて詳しく述ベる.そして,レーザーがどのように光学技術に改革をもたらし,基礎科学にも応用技術にも社会的にも,どれだけ大きな変化を及ぼしているかを考える.終りには,これからのレーザー技術の動向にも触れる.
半世紀にわたる半導体レーザーの歩みを概観した.半導体レーザーは各種レーザーの中で圧倒的にたくさん製造され,最も広い範囲に使われており,日本が研究・開発・生産で世界をリードし,半世紀にわたって技術が発展し続けている.
X線自由電子レーザー(XFEL)はX線領域に至る極短波長レーザーを実現する光源として期待されている.今世紀に入り,共振器を用いずに高利得のシングルパス増幅で,ピークパワーの大きなパルスX線を発生させるための施設が,欧米ならびに日本で建設されるようになった.得られる光は自己増幅自発放射(SASE)光と呼ばれる.レーザー生誕後50年経った今,米国ではX線のSASE光の発生に成功し,日本でも建設の最終段階に入っている.さらに,FEL媒質に外部から種光を注入するなどし,縦モードが制御された「X線レーザー光」を発生させる方法が模索段階に入っている.本稿では,XFELの原理と方式を,その開発の世界の動向を交えながら紹介し,いよいよ現実のものとなるXFEL利用実験の展望に触れる.
レーザーによる情報通信技術の発展,特に光ファイバー通信を中心に,ここ50年の発展を三つの世代に大別して概観する.第1世代は,1985年ごろまでの光ファイバーの低損失化・半導体レーザーの高性能化の時代である.いかにシリカファイバーが低損失化され,それとともに半導体レーザーの性能が向上していったかについて述べる.第2世代は2005年ごろまでのEDFAの出現とWDM技術による大容量化・長距離化の時代である.小型EDFAの出現はグローバルな高速ネットワークを実現したが,励起光源としての高出力InGaAsP半導体レーザーが重要な役割を果たしている.第3世代は2030年の情報通信を目指した多値コヒーレント伝送あるいは単一チャネルテラビット伝送である.光のコヒーレンス性と超高速性を極限まで駆使することにより,シャノンリミットと呼ばれる情報通信の限界に向けての研究が始まっている.そこで最後に周波数安定化レーザーとそれを用いたコヒーレント伝送の研究状況を述べる.
ペタワットレーザーを微小領域に集光することにより,超強電磁場,超高圧,超高密度などの極限状態が実現でき,相対論光学,慣性核融合から医療,産業分野まで幅広い応用が期待されている.本稿では,世界に先駆けて開発に成功したペタワットチタンサファイアレーザーシステムを中心に,極限的な光強度を達成するための数々の要素技術,および現在世界各国で進めてられているペタワットあるいはそれ以上の光強度を目指したレーザー開発の現状について紹介したい.
1960年のレーザー誕生は,マイクロ波帯での誘導放出によるメーザーから展開され,それまでのコヒーレント電磁波の最高周波数であったGHz帯から一挙に数百THz帯の光波へとジャンプして実現した.取り残されたその間の周波数帯は,未踏周波数領域として長い間あまり顧みられてこなかった.しかしレーザー実現直後からこの領域への挑戦はいろいろと続けられていた.近年,いろいろな手法によるTHz波源の高度化とその利用の研究が活発化し,大きな進展を遂げている.テラヘルツ波光源開発の歩みと今後について述べる.
フォトニック結晶は,さまざまな光制御を可能にする光ナノ構造として近年注目を集めている.本稿前半では,フォトニックバンドギャップ効果と,光ナノ共振器による強い光閉じ込め効果を用いた究極のナノレーザー実現に向けた研究現状を紹介する.後半では,ナノレーザーと対極に位置する,バンド端効果を利用した大面積コヒーレントフォトニック結晶レーザーについて,その研究現状を紹介し,高出力動作や,さまざまなビームパターンの生成,青紫色領域での面発光レーザー動作など,興味深い特性が得られることを示す.
レーザーが本格的に製造業に導入され始めておよそ30年が経つ.レーザー光は集束性がよく精密加工ができること,無反力加工ができることを基本的特長とし,あわせて数値制御との親和性がよいことが産業への浸透を容易にした.いまやなくてはならない工作機械として基幹産業を支える製造手段となっているレーザー加工技術を概説する.
半導体露光用エキシマレーザーは,狭帯域化技術と単色投影光学系のコンセプトが1980年代後半に誕生し,すでに四半世紀になる.さらに量産工場に導入されビジネスベースになった1990年代後半からもすでに15年が経つ.この間,DUV 領域のエキシマレーザー KrF,ArF,F2,高出力 ArF を使った液浸,二重露光と目まぐるしく技術開発が進められてきた.出力も当初1W レベルであったものが,2009年に発売された最新型 GT 62 A では90W まで進歩した.さらには32nm ノード以下のリソグラフィ技術として EUV リソグラフィが注目されている.Laser Produced Plasma(LPP)を使った EUV 光源もすでに69W を実現し,今では400W 出力の実現も視野に入ってきている.本稿はその歴史と最新の成果までを概観する.
2005年ノーベル物理学賞の受賞理由の一つは,モード同期レーザーによる光コム技術の開発であった.超短パルスレーザーと精密分光の融合技術である光コムは高精度標準などの精密計測に欠かせない道具となった.本稿は,光コムの誕生を振り返りつつ,光コムの測定原理について述べる.また,光コムがもたらしてくれたもの,およびこれから発展する研究内容について紹介する.
本稿では,「温度とは何か」について,エネルギーおよびエントロピーという二つの観点から,整理して説明する.まず,エネルギーの観点からは,温度とは,「集団を構成する粒子1個当たりの平均エネルギーに対応するもの」と表現できる.しかし,温度の異なる二つの集団を熱的に接触させたときに,どちら向きにエネルギーが移動するのかを決めることはできない.そこで,エントロピーの観点から,温度とは,「最も観測される可能性の高い状態に系が推移していく様子を量的に示す指標である」という理解が本質的に重要である.