プラスチック光ファイバは柔軟性に優れ大口径であり,一般ユーザでも接続や取り扱いが容易で,民生用途に適した伝送媒体である.屈折率分布を付加することで高速伝送にも対応でき,材料を変更することで用途に適した特性を実現できる.近年では屋内配線や自動車内配線などで利用され,その有用性が実証されている.最近ではInfiniBandのアクティブケーブルに採用されるなど,さまざまな分野への応用が考えられる.一方,課題としては耐熱性の向上が挙げられる.また実用的で高速伝送に適した可視光トランシーバなど周辺デバイスの開発が待たれる.今後の更なる研究開発によりプラスチック光ファイバが本格的に普及することを期待する.
光ファイバ中を伝搬する光波によって生じる散乱特性などから,光ファイバに加わるひずみや温度の変化が測定できる.その発生位置を同定する種々の技術開発も進み,ひずみや温度が光ファイバに沿って分布する様子が測定可能になっている.本稿では,光ファイバを航空機の翼や建物に張り巡らせることで「痛みの分かる材料・構造」を実現するための「光ファイバ神経網技術」につき,最近の研究・開発状況を概説する.
単一モード光ファイバを用いた信号伝送において,ファイバの分散性と非線形性が信号伝送特性にどのような影響を及ぼし,それらの影響を軽減するためにこれまでにどのような方策がとられてきたかを,伝送方式の変遷と関連づけて解説する.また,最近注目を集めているデジタルコヒーレント光伝送方式の概要を紹介する.さらに,光ファイバ中の非線形効果は,種々の高速信号処理に応用できることを述べる.
理想的な導波路である光ファイバで構成したファイバレーザーは,安定でメンテナンスフリーな実用的なレーザーとして機能する.透過率が光強度依存性をもつ要素を用いて受動モード同期により超短パルスを生成するファイバレーザーも,カーボンナノチューブなどの新しい可飽和吸収体の開発などにより,大きく進展してきた.更に,特殊ファイバと組み合わせて用いると,超広帯域光源などの高機能な超短パルスファイバレーザー光源を開発することができる.これらの光源は,光計測に極めて有用である.本稿では,超短パルスファイバレーザーの進展とその高機能化,そして光計測への応用について,最近の進展を筆者らの研究を中心に概説する.
周波数標準の安定度や大型測定装置の要求精度の向上に伴い,基準周波数を遠距離に精密分配する技術の重要性が増してきている.本稿では,従来の電線を使ったマイクロ波伝送に代わる光ファイバを用いた光伝送による精密周波数分配の技術を紹介し,その100km以上を10―16台の伝送安定度で信号を分配する技術の応用例とその発展について解説する.
最近,100Tbit/sを超える高速超大容量の高密度波長多重(DWDM)/光周波数多重(光OFDM)増幅中継伝送システムの光伝送実験結果が報告されており,光ファイバ1本で10憶人以上がインターネットや国際電話などをすることが可能になったため,DWDM/光OFDM光増幅中継伝送システムでの主な伝送特性の劣化要因は重要となってきた.そこで,それを評価する測定技術に関する研究及び国際標準化の動向について言及する.
本稿では,主に光ファイバに関する測定(波長分散,偏波モード分散,非線形定数など)技術に関する研究及びその国際標準化の動向を中心に紹介する.
福島の事故はいみじくも原子力システムにおける目視の重要性を明らかにした.本稿では,強い放射線を伴う原子力システムの可視化,光計測で大きな役割を担うと考えられる耐放射線光ファイバ開発の現状について報告する.
原子力機構では,原子力機器の保守保全研究の中で,高エネルギーレーザー光と照射対象の映像を同軸上に伝送できる複合型光ファイバスコープを開発した.この技術のレーザー低侵襲治療機器への応用について紹介する.
加工用のファイバレーザーとして,ここではイッテルビウム(Yb)ドープ光ファイバを発振媒体とする1μm帯のシングルモードファイバレーザーを取り上げる.半導体レーザーを励起源として25% を超える非常に効率の高い電気 -光変換効率を実現し,冷却構造も簡易で実装効率も高い.単一横モードの出射ビームは回折限界の集光を実現するガウシアンビームで,時間的,機械的にも安定しており,加工点への導光についても光ファイバのその特質から非常に容易で,従来に無い高い加工特性を有している.本報告では,500W超の出力のYbシングルモードファイバレーザーについてその構造と特性について紹介し,このレーザーを用いたいくつかの加工事例についての報告を行う.
細径内視鏡に光ファイバを挿入したレーザー内視鏡が,ヘルニアの除去や前立腺肥大の治療に実用化されているが,筆者らは,高エネルギー赤外光の伝送が可能な中空光ファイバを用いることにより,極めて高い効率で生体組織の蒸散などが可能な,波長2.94μmのEr:YAGレーザーを用いた内視鏡レーザーシステムを実現した.また,人体に傷をつけない無侵襲な生体内組織診断である光バイオプシーのための技術として,悪性腫瘍の診断・早期発見や動脈硬化に伴う血管内壁の状態変化の診断などに有効な赤外分光法およびラマン分光法が挙げられるが,これらの両方に適用可能な光プローブとして,細径かつ柔軟な中空光ファイバを用いた分光システムを開発した.
クラウド・コンピューティングやリッチコンテンツの普及に伴い,データセンタなどで処理・伝送される情報量は今後も飛躍的に増大すると予測されるが,地球温暖化や原発事故に伴う電力不足などの課題により,情報量の増大に比例した消費電力の増大は許されない状況にある.本稿では,シリコンフォトニクスの特徴,応用の現状,将来展望などについて述べる.シリコンフォトニクスを用いた光インタコネクトは,その低コスト,小型・高密度集積,低消費電力,高速・広帯域,長距離伝送などの優位性により,情報爆発による帯域幅ボトルネックの解消と,持続可能社会に向けた情報機器の省エネ化という二つの課題を同時に解決する技術であると確信している.