高性能永久磁石はハードディスク,電動車の駆動モータ,風力発電機などに用いられ,われわれの生活に欠かすことができない材料である.近年,小型ロボットやドローンなど用途が多様化するとともに使用量が増加し,磁石開発の世界的な競争が続いている.本稿では,まず永久磁石開発の歴史を振り返り,最強磁石であるネオジム磁石の発明を電子論の立場から再検討する.続いて,磁石材料開発に計算科学やデータ科学がどう利用されているか紹介する.
収差補正レンズ技術の商用化により,物質の局所構造を原子レベルで解析できる走査透過型電子顕微鏡はさまざまな分野で必要不可欠なツールとなった.しかし,得られる情報は観察方向に投影された2次元構造であり,物性を担う格子欠陥などの3次元構造を原子レベルで観察することはいまだ困難である.本稿では,新世代の収差補正レンズにより実現した大収束角照射を用い,一軸に沿って3次元構造情報を取得する深さ断層法の最近の進展について紹介する.
中低温領域の排熱を高効率に電気エネルギーへと変換する用途において,フレキシブルな材料系を用いた熱電変換が期待されている.フレキシブル材料の多くは,構成する物質がファンデルワールス力で接合した界面が無数にある系であり,その界面の性質がマクロな物性に大きく影響を及ぼす.近年になり,その界面の構造を精密に実験的に制御した形で熱電特性を議論することができつつあり,この研究分野は新たな展開を迎えている.ここでは筆者が行ってきた,単層カーボンナノチューブ薄膜系の熱電特性を軸に,ファンデルワールス界面を有する薄膜系の熱電特性について,これまでの知見とその将来展望について議論する.
今後Internet of Things(IoT)の更なる発展により,さまざまな表面から多くの情報を取得するセンサ技術とその信号処理技術が重要となる.そしてセンサ数の増大に伴う情報量の増加やシステムの複雑化,それによる消費電力の増大が見込まれる.本稿では,この次世代IoT社会実現へ向け,人を含む柔らかいモノからさまざまな情報を違和感なく取得するフレキシブルセンサシステムと,1つのセンサで多情報を予測するマルチタスクセンサシステムについて紹介する.まず印刷技術により安価かつ大面積で形成可能なフレキシブルセンサについて議論する.センサフィルムに切り紙構造を適用することで通気性および伸縮性を付与し,装着感を改善する.またセンサ構造を最適化することで運動時においても心電図やその他情報を常時計測できる無線センサシートを開発する.次に機械学習の1つであるリザバーコンピューティングを用いて1つのセンサで雨粒の体積と風速を同時予測するマルチタスクセンサシステムについて説明する.最後にフレキシブルセンサの実用化への道のりについて簡単に議論し,まとめとする.
半導体は放射線に脆弱(ぜいじゃく)でソフトエラーと呼ばれる誤動作を起こす.ソフトエラーは解決済みの古い問題と誤解されることがあるが,実際は現在進行形で社会経済インパクトをもたらしている.現在,半導体のソフトエラー信頼性を評価するには放射線を当てなければならない.地上用であれ宇宙用であれ,当てなければほとんどわからない.ソフトエラーが放射線のエネルギー付与によって起きる以上,当てることは本質的で避けられないように思える.だが,果たして本当にそうなのだろうか.本研究はこの問いに取り組んでいる.放射線を当てずにソフトエラー信頼性を言い当てる魔法のような方程式を探している.
プラズマ‐物質相互作用現象とは,プラズマと固体表面の界面で起こる現象を指す.高エネルギーかつ低密度なプラズマによって固体表面にはナノメートルスケールの構造物が形成されやすく,ナノテクノロジーを支える技術である.核融合研究においても,反応生成物であるヘリウムプラズマが真空容器内壁のタングステン表面に繊維状ナノ構造を誘起することなど,プラズマ由来の固体表面のミクロな変化が重要な課題である.
このように,空間的にはミクロな変化に注目している一方で,変化が起こるまでのプラズマの照射時間は,秒から時間と非常に長い.もちろんおのおのの素過程はミクロな時間スケールで起こるものの,全体を解き明かすには,空間ミクロ・時間マクロという特殊な問題として捉える必要がある.このような観点から,プラズマ‐物質相互作用を数値シミュレーションで扱う難しさと魅力,将来へ向けての取り組みについて紹介する.
計測に機械学習など,統計的な手法を導入するときの共通課題を,関連技術の歴史を織り交ぜつつ解説します.材料が持つ物理・化学的コンテキストの多様性と,本来計測が持つべき汎化(はんか)性を評価軸にして,代表的な手法の位置づけと応用における制約を考え,計測インフォマティクスを材料開発などに展開するうえでの,知識基盤やデータ連携の重要性に言及します.