大学の狭い通路をかき分けて教室を探し当ててみれば,すでに満員.空調も効かない中,後ろの壁際に立ち,遠く小さなスクリーンの文字に目を凝らす…….そんな応用物理学会学術講演会の数十年来の「伝統」が今,ついに変わろうとしている.今年9月の名古屋を皮切りに,本格的な「国際会議場」での講演会が始まるのだ.この改革は一体どのような検討を経て決まったのか? 参加者にとって,どのようなメリットが期待されるのだろうか? 会場使用料で,学会が破産したりはしないのだろうか? 元・講演会企画運営委員長の益一哉先生(現・副会長)はじめ,関係者への取材や事務局に保管されている資料から,その経緯や今後の見通しに迫った.
昨年8月号の特集「図解:学術講演会大分類」の第2弾として,今号では今後の応用物理の展開をにらんで,若手研究者による「図解:応用物理学会の未来予測」を掲載します.応用物理学会の全分野にわたるトピックスの中から注目すべき最新の話題を,視覚的に訴求力のある特集としてまとめました.記事提供者の推薦には,『応用物理』外部記者クラブの40名を超える記者の皆様の力をお借りし,機関誌編集委員が総力を挙げて編集を行いました.その結果,最先端の若手研究者の方々から36件ものすばらしい研究成果の提供をいただきました.この特集号を通じて,応用物理学会の研究層の厚さ・広がりを実感していただき,会員の皆さんと応用物理という分野の将来を展望していただければと思います.『応用物理』も進化を続けていますし,今,このページをスマホやPC,タブレット端末などで閲覧している人も多いかと思います.『応用物理』にこんな写真が出ていると,同僚や友人に簡単に見ていただけると思います.紙の『応用物理』と同様に電子版もマークしておいてください.
上記の特集記事に加えて,最近の注目研究として,次世代の再生医療の基盤技術への展開が期待される「自己組織化単分子膜を利用した再生医療のための臓器・組織の作製」,有機発光ダイオードや太陽電池,各種センサなどへの応用を目指す「希土類金属錯体発光とその偏光発光発現」,生体細胞などをより高い精度で観測することを可能にした「量子もつれ顕微鏡」の3件を紹介します.
また,来る9月,本会の学術講演会では初の国際会議場での開催に至る経緯を追ったルポルタージュや「ココだけのハナシ」など,多彩な記事もお楽しみください.
外部刺激によって表面のぬれ性やタンパク吸着などを動的に大きく変化させることが可能な材料は,スマートマテリアルの一種であり,基礎的な分子レベルの解析から医療などの応用までさまざまな領域で注目されている.本稿では,金表面に形成した自己組織化単分子膜(SAM)の電気化学的な脱離を利用した細胞接着性の制御技術について解説する.さらにこの細胞接着制御技術が立体的な臓器・組織の構築に有用であり,再生医療の基盤技術へと展開できることを示す.
希土類錯体は一般にランタニドイオンと有機分子から成り,有機分子はランタニドイオンに対して配位子,光アンテナ,エネルギードナーおよび分子配列因子として機能する.ランタニドイオンは光アンテナからのエネルギー移動により,例えばUV光を可視光や赤外光にエネルギー変換できる.溶液や固体および薄膜化は,希土類発光を増感するだけでなく,分子配列による偏光発光特性などを誘発する.ここでは,希土類発光の原理とともに,錯体化学を駆使した発光の偏光性に関し紹介する.
光学顕微鏡の中でも,微分干渉顕微鏡は,非侵襲観察・計測手段として,生物学などで広く用いられている.その深さ方向分解能や計測精度は,従来の光源を用いた場合,標準量子限界と呼ばれる信号雑音比で決まる.しかし,光に含まれる光子間の相関を制御した,量子もつれ光を用いることで,この限界を超えることが可能になる.本稿では,最近我々の実現した「量子もつれ顕微鏡」について紹介する.
透過型電子顕微鏡(TEM)は,像のコントラストが材料中のどのような情報を引き出しているのかを理解して(制御して)用いることが不可欠です.また,試料作製が観察全体の成否を決定する場合が多いことも特徴の1つです.ここでは,TEMの像コントラスト解釈における基礎,観察における注意点ならびに試料作製方法などについて解説します.