鐵が酸化して酸化鐵となる際のFe→FeO, FeO→Fe
3O
4, Fe
3O
4→Fe
2O
3の個々の變化を實驗したが,何れもその結晶構造から推論される變化の機構が實驗的にも殆んど承認されなければならない.然し乍ら酸化の性質上個々の變化に於てもその傾きは崩れ易いから,鐵が酸化してFe
2O
3になつた様な場合には殆んど崩れてその傾きが不整となるものである.
扨て以上の酸化及び還元を見るに個々の状態に於ては,その酸素の添加又は消失により又はその原子或ひはイオン化による體積の變化と,夫れに附隨して起る原子又はイオンの安定を得る爲の移動により,膨脹及び收縮を伴ふものではあるが變化の結果を總括すれば次の如く述べる事が出來る.
1. 酸化と還元に於ける結晶内部の原子配列の變化は可逆的である.
2. 酸化及び還元の個々の状態の鐵原子の變化を見るに次の如くなる.
a) Fe〓FeO 立方格子に於ける鐵原子密度の最大な(111)が相對的に移動の最も尠い様に變化する.
b) FeO〓Fe
3O
4 立方體格子の(111)面上に於ける鐵原子の一部が,〔111〕の何れかの一方に僅かに移動する事によつて變化する.
c) Fe
3O
4〓Fe
2O
3 両格子の(111)が互ひに平行で〔111〕を軸とした全體としての廻轉を考へに入れなければ,(111)面上に於ける鐵原子の一部が〔111〕の何れかの一方に僅かに移動し,更に〔111〕の方向の收縮又は膨脹によつて一方より他方に移る.
3. 酸素原子は鐵原子の變化に伴ひ次の如く變化する.
a) Fe〓FeO 酸化の場合には酸素は鐵原子格子の最も廣い空隙に入り面心立方格子を形成し,還元の場合は結晶格子から消失する.
b) FeO〓Fe
3O
4 酸素原子には移動がない
c) Fe
3O
4〓Fe
2O
3 全體としての廻轉を考へに入れなければ,(111)面上に於ける酸素の一部の消失又は添加と夫れに伴ふこの面上に於ける僅かの移動によつて一方より他方に移る.
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