有機太陽電池の効率は20%に達した.今後,シリコンに匹敵する25%を実現するには,全ての再結合,特にジェミネート再結合,2分子再結合,トラップ誘起再結合の抑制が必要不可欠である.長期的には,無機半導体と同様の,励起子フリーの高効率光電流発生が実現する可能性がある.
あらゆる活動に伴うエネルギー消費は熱を生み出す.放置すると環境に消えていくが,ロジック半導体,パワー半導体,光デバイス,生体など,正常な機能と性能を維持するには適切な熱マネジメントが重要となる.正確な熱輸送の理解には,熱キャリヤであるフォノンの振る舞いを深く理解する必要がある.光子や電子と比べるとフォノンは追跡と制御が難しいが,特異な物理の探索と制御技術開発が着々と進められている.本稿では,熱フォノン制御の難しさ(おもしろさ?)を理解するために,ナノスケールでのフォノン熱輸送の基礎を踏まえ,その理解と制御が開くさまざまな応用について紹介する.
グラフェンは,その特異なバンド構造,キャリア移動度の高さ,フォノンとの結合の弱さから,THz領域で顕著なキャリアダイナミクスを示す.本稿では,グラフェンにおけるTHzプラズモンの励起領域を電気的に制御した成果,およびグラフェン光検出器における超高速光‐電気変換メカニズムを解明した成果を解説する.後者の実験ではTHz領域の電流をオンチップTHz分光法を用いて測定しており,その手法についても解説する.
有機半導体では,電子移動度(n型特性)が正孔移動度(p型特性)に比べて1桁も低い.これは大気による電子トラップのような外因的な要因なのか,本質的に電子移動度が低いのか,明らかでなかった.筆者らは角度分解低エネルギー逆光電子分光法を開発し,初の有機半導体(ペンタセン)の伝導帯のエネルギーバンド構造(エネルギーと波数の関係)の実測に成功した.バンド幅の解析から,ポーラロンという準粒子が生成していることを明らかにし,部分ポーラロンという新たなモデルを提案した.このモデルを波束拡散法に取り込んで移動度を計算し,電子‐フォノン相互作用の影響で電子移動度が正孔移動度に比べて本質的に低いことを明らかにした.
神経回路の優れた特徴を模倣して情報処理ハードウェアを設計する手法は,ニューロモルフィック工学と呼ばれ注目を集めている.本稿では,アナログ回路や相転移材料を駆使した神経回路の模倣によって,優れた省エネ性を実現するIoT技術について紹介する.具体的には,神経回路を模倣した回路によって制御や学習を超低消費電力に行う取り組みと,末梢神経の温度センサを模倣したデバイスによって優れた2次元センシングを行う取り組みについて紹介する.
南米チリ共和国で運用されているアルマ望遠鏡は,2011年の観測開始からさまざまな成果を挙げている.アルマ望遠鏡は今後も引き続き天文学を牽引(けんいん)していくために,高度な機能強化を行う.これを日本ではアルマ2と呼び,観測システムの同時受信周波数の広帯域幅化が最重要項目の1つとして掲げられている.本稿では,アルマ2に向けた超伝導受信機フロントエンドの広帯域化研究の一部を紹介する.
日本で産学連携が本格化してから25年以上がたち,近年はその重要性がますます高まっている.本稿ではその歴史的背景を踏まえたうえで,筆者の長年にわたる経験に基づき極力実践に即した内容で,技術移転の基本プロセスについて整理し,さらに研究者にとっての技術移転活動の利点およびリスク管理上の留意点についても述べる.大学等の研究者が技術移転活動を進める際の手引きとして役立てば幸いである.