ダイヤモンドは,他のワイドバンドギャップ半導体で作るのが難しい高性能なpチャネルの電界効果トランジスタを作ることができる稀有(けう)な物性を持つ.そのため,相補型パワーインバータの実現などパワーエレクトロニクスを変革する可能性のある魅力的な半導体材料である.本稿では,研究開発が進むダイヤモンド電界効果トランジスタについて,特にダイヤモンドとゲート絶縁膜の接合部の構造が特性に与える影響を中心に解説する.
核医学は早期のがんの発見や治療後の評価において非常に強力な臨床診断装置である.一方でその撮像原理は長い間変わっていない.本稿では,急速な進展が見られるeV領域のエネルギーを用いる可視光イメージング技術と比較しながら,MeV領域のエネルギーを用いる核医学イメージングの将来展望について議論する.特に次の3つの論点についてMeV光子を用いたイメージングでの筆者らの取り組みについて紹介する.①マルチカラー,多波長可視化,②量子センシング技術による分子間相互作用可視化,③量子もつれによる核医学画像の高度化.
近年の先端半導体デバイスの微細化に伴い,半導体製造での電子ビーム装置の高分解能,高スループット化への要求が高まっている.平面型電子源は半導体微細加工技術で作製可能であるためアレイ化によるマルチビーム化が容易であるが,エネルギー単色性と放出電流密度に課題があった.原子層物質の優れた電子透過性を用いることでその課題を克服し,高い放出電流密度と従来型電子源を凌駕(りようが)するエネルギー単色性を実現する平面型電子源を開発した.
ナノ材料に関する研究では,形状や内部組織が均一な薄膜やナノ粒子が注目されることが多いが,我々の研究では,基板上にナノメートルオーダの間隔で不規則に並べられた“ナノギャップナノ粒子”に注目している.ナノギャップナノ粒子を作製するためには,ナノ粒子の形成過程をリアルタイムに観察する手法が必要であり,これまでに圧電体の共振を用いた抵抗率スペクトロスコピー法を開発してきた.本稿では,我々が開発したナノ粒子の形成過程観察手法と,ナノギャップナノ粒子を用いた水素ガスセンサの開発およびコアシェルナノ粒子の形成過程観察に関する研究成果を紹介する.
リポソームはリン脂質から人工的に作製した脂質二重膜小胞であり,その構造とサイズから人工細胞モデルの構築に用いられている.実験の再現性や定量的な分析のために,サイズが均一,均質かつ分子の内封効率が高いリポソームの製造法が必要となる.本稿では,我々のグループが開発したマイクロ流体デバイスを用いた単分散リポソーム作製システムを説明する.このシステムでは約100%の収率で直径25~45µmの単分散リポソームを得ることができる.また人工細胞への応用に向けて,リポソームに無細胞転写翻訳系を内封し,タンパク質の合成と膜への組み込みが進行する条件を検討した結果について紹介する.
アクティブマター物理学は,自己駆動する要素の集団挙動を研究する分野である.アクティブマターは,エネルギーの供給によって駆動力を獲得したコロイド粒子,生体高分子,細胞,動物個体などが挙げられる.アクティブマター集団は,エネルギーを内部で均等に分配する通常の物質とは異なり,対称性を破って特定の運動や変形パターンを示す.例えば微生物,魚や鳥の群れや人間の集団などの生物システムから自動車などの人工システムまで複雑なパターンが形成され,そのメカニズムについてさまざまな視点から研究がなされている.本稿では,筆者らのモデル動物である線虫C. elegansを利用した研究を中心に紹介する.
本稿では,URAがどのようにして生まれ,研究組織内でどのような業務を担っているのかを概説する.筆者の視点から,URAの業務がいかにして研究職や事務職と協働し,組織全体の研究活動を活性化させるかについて述べ,読者の理解を深めることをねらいとする.URAを活用することで研究の質向上や組織運営の効率化に貢献する新たな視点が得られることが期待される.