1986年の高温超電導の発見から38年.いよいよ大規模な応用が見えてきた.それが高温超電導小型核融合である.これには従来にない高磁場の大型超電導コイルが必要であり,そのため多量の高温超電導線が必須となる.総量は億kmレベルにもなるため,現在,線材各社は総力を挙げて量産化に取り組んでいる.本稿では,現在主流となっているIBAD-PLD法REBCO線を中心に,量産化へ至る技術開発の道のりと今後の課題を述べる.40年ぶりのチャンスであるが,資金‐開発研究‐産業化にこれまでにない国際的な連携が必要であり,次代の産業と経済を担う若い研究者,技術者,起業家に参考にしてもらいたい.
グラフェンは炭素原子1層の2次元物質であり,その優れた光・電子物性によりさまざまなデバイスへの応用が期待されている.本稿では,このようなグラフェンの光センサ,特に赤外線センサへの応用について解説する.グラフェンの赤外線センサ応用への期待と課題を整理したあと,デバイス化後の特異な光検出原理を明らかにする.さらにグラフェン固有の高感度化手法である光ゲート効果について述べる.最後に,光ゲート効果の信号増幅効果に加え暗電流抑制を可能にするグラフェン光ゲートダイオード構造と素子を2次元周期のアレイに配置することにより実現したグラフェン赤外線イメージセンサについて解説する.
相変化の初期段階における核生成過程はさまざまな分野に関連する基本的な過程であるが,理論的に予測される核生成率は不定性が大きいことが知られている.分子動力学(MD)計算は,核生成過程の詳細を分子レベルで調べる有力な手法であり,核生成率だけでなく,臨界核,核形成のギブスの自由エネルギー,分子の付着確率などさまざまな情報が得られ,理論を多角的に検証できる.多数の粒子を用いたMD計算により,より低い核生成率の現象を追うことができ,実験データと同じ条件の再現もできるようになってきた.本稿では80億体の分子を用いた気相からの液相への凝縮核生成や,5億体の分子を用いた液相からの気泡核生成など,いくつかの核生成現象をMD計算により調べ,高精度な核生成モデルの構築を行った例を紹介し,実際の自然現象への応用例や新たな展開についても言及する.
層状物質の研究を行うにあたり,基板上の極薄膜を光学顕微鏡で観察することは重要であり,これまで熱酸化膜付きシリコン基板の光学的干渉効果を利用して観察が行われてきた.本稿では光学顕微鏡像のコントラストを増強するための手法として,基板の光学特性に着目した可視化技術を紹介する.この手法により,従来は困難だったhBNの単層膜の可視化や信頼性の高い層数決定が行える他,厚い結晶の表面に存在する僅かな段差を明瞭に観察でき,剝離した小さな結晶の選定に応用できる.
多くの電解質は溶解すると水の表面張力を増加させる.熱力学によれば,このことから気液界面とイオンとの間に反発的な力が働いていることを導くことができる.本稿では,こうした表面張力の熱力学的な性質と表面張力変化の計算理論を紹介し,実験データの理論的な解析から個々のイオン種のイオン吸着を定量的に比較する.また油水界面と疎水的な固液界面における表面張力や接触角の実験データを解析することにより,イオンと疎水性界面の相互作用という普遍的な性質を明らかにする.
近年,研究者には論文投稿だけではなく,特許の出願も求められる傾向にあると感じます.一方で,一部の研究者を除くと,出願はハードルが高く,積極的に出願意欲を持つ研究者は少ないように思われます.本稿では出願経験の浅い研究者向けに記載しましたが,確認の意味を含めて,特許の出願についておさらいしたい研究者にも参考になるように記載したつもりです.特に,特許の重要性,特許性有無の考え方,出願の可否判断,出願に必要なデータ,特許の検索方法,特許相談や出願のタイミング,出願の進め方,を中心に記載しました.本稿が多少なりとも特許出願の助けになれば幸いです.なお,本稿では,10項目で構成されている知的財産権のうち1),特許権を中心に解説します.