磁場は,最も基本的な物理量の1つである.超伝導マグネットは,省電力で強磁場環境を作り出せるため,医療用磁気共鳴画像装置(MRI)なども含めれば国内だけでも1万台ほどが普及している.そのような普及型超伝導マグネットには低温超伝導体(LTS)が用いられる.一方で,高温超伝導体(HTS)の発見から40年が経過した現在では,HTSを超伝導マグネットに用いることで30Tを超える磁場の発生が可能になっており,将来的には50T級の実現が期待されている.本稿では,強磁場超伝導マグネットの現状を俯瞰(ふかん)し,HTS材料の観点から課題を整理した.
層状MAX相化合物は,新たな原子層系として近年注目されているMXenesの母物質であり,金属とセラミックの双方の特徴を合わせた優れた特性から,応用研究材料として知られている.一方で,その物性を担う電子状態については理論が先行しており,直接観測が全くされていない状態にあった.本稿では,角度分解光電子分光(ARPES)を用いたMAX相単結晶における最新の電子状態の研究により明らかになった,ディラック点や線ノードなどの特異な電子状態について,この系におけるトポロジカル物質としての特異な量子輸送現象の発現への期待も併せて解説する.
本稿では,筆者が「プラズマを流体として工学する」をコンセプトに進めてきたナノ粒子大量創製やアーク溶接といったプラズマものづくりプロセスにおける諸現象の数理モデリングと数値計算法の研究1)および最近取り組んでいる溶岩流シミュレーションの研究について紹介する.なお,掲載している図は静止画であるが,それぞれに対応する動画はインターネット上で閲覧可能2)であるため,そちらもご覧いただければ幸甚である.
プラズマを用いて触媒反応に高い非平衡性を付与することで,熱化学的に対応できないユニークな反応を生起できる.電気エネルギーを用いて分子を活性化するため,熱依存型の従来システムから脱却した新たな低温化学反応システムの創出が期待できる.近年,再生可能エネルギーの利用推進と相まって,プラズマ触媒に関連する技術は,電気化学,光化学に次ぐ新しいプロセス電化技術として注目を集めている.低炭素社会の実現に向けたCO2有効利用を背景として,熱平衡の制限を超えた分子転換を実現する非平衡触媒反応の概要および反応機構解明への取り組みを紹介する.
超伝導REBa2Cu3Oy(REBCO)薄膜を用いることにより従来技術では実現できない高性能な高周波デバイスが実現できると考えられてきた.しかし,実用化されたのは受信用フィルタのみであり,この原因の1つはREBCO薄膜の特性が低いことにある.近年,筆者の研究グループでは,独自の基板アニール処理を用いることによりトリフルオロ酢酸(TFA)塩を用いたMetal Organic Deposition(TFA-MOD)法で作製したREBCO薄膜の特性を飛躍的に向上できることを見いだした.本稿では,TFA-MOD法および基板アニール処理を用いた高周波用のREBCO薄膜およびその薄膜を用いた超伝導‐高周波デバイスについて紹介する.
熱電変換は熱エネルギーと電気エネルギーを直接相互に変換でき,CO2を生じないエネルギー回収技術として,カーボンニュートラルの観点からも注目を集めている.熱電変換材料は,電気が流れやすく,かつ熱が流れにくい物性が要請され,熱電変換材料として最も応用に用いられているBi2Te3はその要請を満たすが,Ptと同程度の地殻埋蔵量である希少元素Teを含んでおり,資源制約の観点から課題となっている.本研究では,Teを含まない新規熱電変換材料として,リンを主成分としたリン化物熱電変換材料に注目し,中でも結晶中で銀Agが特異的な振動をすることで,電気伝導を損なわず,熱の流れを抑制するAg-P化物AgP2の機能性について,実験と理論計算の両面から解明した.
ニーズ・シーズが明確であれば,コンソーシアムの組織形成は容易であるが,多分野連携を基盤とした,自律的かつ持続的な研究開発活動を行う場として機能させるためには,相互理解を踏まえた長期的な互恵関係構築が必須となる.本稿では,複数のニーズ・シーズが出会い,多くの(自称を含む)若手研究者が分野間の壁を乗り越え活躍できる連携システムづくりに関し,筆者の経験に基づき要点を整理する.よってコンソーシアム立ち上げ時に必要な目的設定規約などに係る形式論には触れず,現場の研究者間連携構築に軸足を置き,構築のためのヒントや残された課題について述べる.これらが応用物理学の諸分野の連携推進に対して一助となれば喜ばしい.